風姿花伝 : 新訳 : 六百年の歳月を超えて伝えられる極上の芸術論・人生論
世阿弥 / 観世 清和
定価: ￥ 950+税

　『風姿花伝』は、もともとは世間一般に向けたものではなく、家を継ぐ者に、稽古や演技、興行の要諦や芸道の奥義を伝えるための観世家の相伝の書として執筆されたものでした。
　本書は、 『風姿花伝』を観阿弥・世阿弥の嫡流観世宗家 観世清和氏自らが訳したものです。わかりやすく、語りかけるような訳文は、『風姿花伝』の真髄を読者に実感させてくれることでしょう。
〈PHP研究所webページ　より〉


能楽の観客は「貴賤」入り交じるとらえどころのない存在です。足利将軍家や公家という高い教養に身を包んだ上層の人々にも、都市部の町人にも、また田舎の大衆にも、等しく「寿福」をもたらさなければ一座の勤めは果たせません。しかも当時は、申楽、田楽を得意とする各座が林立、それぞれが独自の芸風をもち、どの座が人気を得て優れた興業成績を収めるか、また、それにより引き続き興業の機会を得るか、激しい競争が繰り広げられていました。人々の支持を失えば、貴族の庇護や興業の成功も成しえません。…。

『風姿花伝』は、世阿弥の数多くの伝書の中で、最も早く書き始められたものです。観阿弥の役者としての高い技量と、貪欲に他の芸能の魅力ある部分を取り入れ、総合していった構想力。そしてその長子世阿弥の、たぐいまれな教養と容姿、技量の三つを備えた稚児としての魅力。大和地方の小さな申楽の一座「結城座」に、観阿弥・世阿弥親子が現れ、それが大きな力となり、やがて一座の中心となって、観世座が生まれます。

こうした「申楽」や「田楽」の諸座が芸を競う中、南北朝の時代に、大和申楽の「結城座」に名手観阿弥が登場します。……。

一方、当時新興の武士階級は、新しい文化装置を必要としていました。従来の貴族政権の中で育てられた和歌や連歌、雅楽といった古典ではない、独自の新しい文化メディアを求めていたのです。そこに、新しい演劇として興った申楽が、見事にマッチしました。
応安7年(1374)の京都、今熊野で催された申楽は、観阿弥一座が演じる当時評判の舞台を、足利将軍義満自ら足を運んで観覧するという歴史を画する出来事となりました。観阿弥42歳、世阿弥12歳、そして義満17歳の時のことです。……。

〈本文より〉


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