本書は日本語学における語彙に関わる論考を纏めたものである。比較語彙研究・意味分野別構造分析法の総論、その方法論的検討、その具体的な記述から、比較語彙研究以外の個別語彙の研究まで、幅広い領域の論考で構成。各領域での最先端の課題を提起する。

比較語彙論については、この提案を1994 にして以来、諸処にその概要を書 いてきました。ここに改めて現時点において、 今までを振り返り、初心に立ち 返るとともに、多くのご批判 ご意見をふまえて、比較語彙論の構想と目的を 述べ、その後に気づいたことも加えて、比較語彙論について今考えているとこ ろを概説したいと思います。
そもそも、語彙論は、言語学の他の分野に比べて、文字通りの語彙が研究の 対象にされることが長らく放置されてきたという極めて特異な偏頗な発達をし てきています。その単位であるところの個々の語の研究は早くから進んでいま した。人々が言葉について関心を持ったとき最初に個々の語の意味用法が関心 の的であったろうと思います。 研究とも言えない段階からその関心は日常的に あったものと思います。 個々の語の使い方は知らなければ何ともならないとい う事情があったと思いますし、 それは、現在でも同じ事です。
ところが、その語彙全体、文字どおり語の集合として語彙は、人々の関心を 引きませんでした。 自分の語彙がどんなもので、その語彙量がどれくらいかと いうことさえ、ほとんど関心を引きません。 よほどの専門家以外それについて 特別の知識を持とうとさえしません。 それ故、 それを扱う分野の研究などはそ れに正比例して全く遅れていました。 一言語の語彙全体を対象にするというよ うなことは、ほとんど考えられもしませんでした。 ただ、語彙の性質を少し考 えてみると、その中には、日常的に頻繁に使う 「語」 とひょっとすると一生に 一回も使わない 「語」 のあることが分かります。

外箱小傷、小汚れ。