昭和44年　582p

はじめ
はしがき
茶の湯の歴史を静かにふりかえってみますと、利休より前すでに、茶の湯の心も形式も、りっぱ にでき上っていたように考えられます。それなのに、利休の功績がもっとも高く評価され、茶とい えば利休、という風に利休の茶が、茶の湯を代表するように見られているのは、なぜでしょう。 格式厳重な殿中の茶とは別の流れにたち、その頃の民衆たちが追い求めていた境地を具現した新 しい茶の湯が東山時代に生れ、それがやがて社会の広い層の支持をあつめていったのでした。 室町 時代の末にかけて茶道界には優れた茶人が輩出したようです。決して珠光や紹鷗だけではありませ ん。ただ珠光や紹疇の考えや事績が、利休の茶の先駆として後世に多く伝えられ、そのために名が 高まったのでしょう。 利休以前、正確にいえば利休の五十歳頃までの茶道界には、実に多様な茶風 が展開されていたように思われます。そうしたなかで利休は、珠光や紹鷗の茶における佗茶の芽や 苗を精魂こめて育て、茶の湯の核心を佗茶に凝縮させたのです。確かに茶の湯の根底を問いつめて ゆけば佗びの心ということになります。その徹底した探究を利休がやり遂げた。このような利休の 業績によって、誰もが茶の湯の根底を把握できるようになったといってよいでしょう。 こうして利 休が明白にした茶の根底に踏み立って、幾多の茶匠がふたたび多彩な茶風を展開し始めたのです。 こういう利休の働きがなかったら茶の湯は、おそらく後世これ程に発展できなかったでしょう。

外箱小傷、小汚れ。もちろん読む分には問題ありません。

なお細部に至るまではチェックしきれない場合がありますので、書き込み・線引き・記名・蔵書印・値札等ある場合があります。ご理解の上、ご購入下さい。