昭和60年　厚さ約1cm　巻頭に署名あり

金重素山 かねしげ-そざん

1909－1995　昭和-平成時代の陶芸家。
明治42年3月31日生まれ。金重陶陽の弟。兄とともに戦後の備前焼再興につくす。織豊時代の緋襷(ひだすき)を電気窯で再現し,おもに茶陶を制作した。平成3年岡山県文化賞。平成7年12月27日死去。86歳。岡山県出身。本名は七郎左衛門。
【格言など】作品は子供じゃ。生まれ変わっても焼き物をやる(常に口にしたことば)
出典　講談社

一年半ほど前のことである。旧知の金重素山氏と一夕やきもの談義に花を咲かせた ことがあった。話が絵付けのことに及ぶと、氏は加山又造氏の彩絵の見事さを熱心に 語られた。この話を聞いて、心の中にふとひらめいたことがあった。
素山さんの器に加山さんが絵を付けたら、すばらしいものが出来るのではないか。 この想いは日を追ってふくらみ、やがて強い願望となった。加山さんも親しい知人で ある。早速この旨を両氏に伝えてみると、共に快く諾された。今年に入り、両氏相会 する席を持ったところ、話ははずみ、すぐにでもという運びとなった。
光悦と宗達、光琳と乾山、大雅と蕪村――歴史に名を残す巨匠たちの幸福な出逢い に想をはせ、夢は次々と広がったが、考えてみると、素山さんは、備前にあって、茶 陶を中心とした、わび・さびの世界で作陶する陶芸家、一方加山さんは、金銀を駆使 し、華麗な装飾美の世界で健筆を揮う画家、共に伝統を現代に生かすという点では共 通するものの、その住む世界は対極にある。果たしてどんな結果となるか。期待とと もに一抹の不安もあったのである。
やがて数ヵ月経ち、焼き上がった作品の前に立ったとき、その心配が全くの杞憂で あったことを知った。いや、むしろ、完璧なまでの仕上がりは、感動的でさえあった。 世界の異なる二大家が一つの作品を仕上げるまでには、余人の察し得ぬ苦衷があっ たかもしれない。目に見えぬ火花が散ったこともあったはずだ。しかし今日、その作 品を見てそんな痕跡が微塵も感じられないのは、いかに両氏がこの合作に熱い想いを 寄せ合ったかの証左といえよう。この歴史的な出逢いの瞬間に居合わせた一人として、 いま無上の喜びを噛みしめている。
日本経済新聞社顧問
圓城寺次郎

表紙小傷。ページ小黄ばみ。

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