昭和53年　312P

訳者あとがき
考古学は文献資料に欠落している人間行動の足どりを、過去にのこされた遺物・遺構を通してつきとめようとするこ ころみである。しかし、遺物・遺構のある場所は必ずしも地上・地下とはかぎらず何らかの原因で水没したものもかな りの数にのぼっている。主として研究の対象を地上・地下に求める領域を陸上考古学と規定すれば、このように水底に 求める領域は水中考古学とよばれる。
こうした水底の考古学的資料は漁撈作業や天候異変などで偶然発見されてきた。現在ルーヴル美術館所蔵の「ピオン ビーノのアポロ像」、アテネ考古博物館所蔵の「アンティキテラの青年像」「アルテミシオンのゼウス像」などは、一九 世紀から二〇世紀初頭にかけて海綿採取夫やトロール船によって引きあげられたものであるが、これらは前五世紀から 三世紀にかけてのギリシア古典期に属する最高傑作であり、陸上ではローマのキリスト教化で破壊しつくされもはや現 存していない貴重な青銅原像である。

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