1997年 199ｐ

ごあいさつ
平成七年七月七日、宮脇綾子さんが亡くなりました。九十歳でした。
戦後、防空壕への出入りから解放され、少し自由な時間ができたのは、綾子さんがちょうど四十歳の時でした。 そんな折、夫や子供たちの世話をしながら手がけたのは、タンスや押し入れの奥にしまってあった古切れを使ったアプリケでした。藍染の木綿、縞、絣、更紗、縮緬などを素材に、モデルは台所にころがっている野菜、果物、魚や庭 に咲いている草花など、主婦の日常にかかわるものばかりでした。以来、ほぼ半世紀にわたりアプリケの世界に生 きることになります。
夫の洋画家、故・晴氏に支えられて、普段何げなく目にする素朴な食材などが綾子さんのこまやかな感性、鋭 い観察眼でびっくりするほど新鮮で、生き生きと、美しく、ユニークで、温もりのある作品に大変身します。そして 見る人を幸せな気分にします。
出品されているものは創作の一部ですが、これらの作品は天才が生んだものではありません。日課として作り 続けた「はりえ日記」や「色紙日記」、そして「木綿藍型染干柿(一万柿)」などに見られるひたむきな努力の積み 重ねから生まれたものです。
綾子さんの初めての遺作展となる本展では、初期から晩年にいたる代表作を中心とした約百六十点のほかに、 綾子さんの人柄がしのばれる遺愛品、創作活動風景のパネル、そして晴氏の描いた綾子さんの絵などで、一人の 芸術家の全容に迫ります。
最後になりましたが、本展開催にあたりご尽力いただきましたご遺族、貴重な作品を快くご出品いただきま した所蔵家の皆様、ご協力を賜りました関係各位に厚く感謝の意を表します。
朝日新聞社

表紙小傷、小汚れ。ページ小黄ばみ。もちろん読む分には問題ありません。

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