1989年 64ページ

空海から最澄にあてた書状三通を一卷に合装している。 第一通の冒頭に「風信雲書」 とあるところから、この全体をこの名で呼ぶが、こまかく區別して、第二通を「忽 披帖」、第三を「忽惠帖」と稱することもある。空海の書の基礎は、奈良朝以来の傳 統に従つて、王羲之に置かれたには相違ないが、入唐求法の際かの地の新様式の書風 の感化をも受けて、その完成された書の風味は、かなり複雑なものになっているよう である。これら三通の書状がそれぞれに面貌を異にする表現を遂げていることからも、 そのことは明らかであろう。もと五通あつたが、一通は盗難にかかつて失われ、その 後、關白秀次の懇望によって、さらに一通を割愛したことが巻末の附記によつてわか る。すなわち、「當關白殿下秀次公、以與山上人爲御所望付、消息四枚之內、一枚 進上畢、天正廿旺年四月九日」と記されている。 執筆の絕對年代は不明であるが、弘 仁三・四年(八一二・八一三)のころかと推定されている。もつとも、第二通に見える 「左衛士督」の官名は、衞士府が衞門府に改稱されたのが弘仁二年十一月のことであ るから、空海がわざと舊官名を用いたのでない限りは、改稱以前の執筆であることを 暗示している、と岩橋小彌太博士はいわれる。元来最澄あての書状であるから比叡山 に傳えられたのであるが、後村上朝の興國年間(一三四〇一四五)に教王護國寺(東 寺)に寄進されて今日に及んだという(故黑板勝美博士説)。なお、第一通の「金蘭」 は最澄のこと。「室山」は空海の法弟で大和室生寺の開祖となった堅慧である

外箱傷、小汚れ、小破れ。ページややシミ。

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