昭和41年　モノクロメイン　厚さ約2.5㎝程度

京都国立博物館館長
塚本善隆
わたしは名古屋西郊七宝村の七宝焼製作の家の出である。
わたしの少年時代はこの精巧豪華をきわめる日本七宝焼が欧 米に高くかわれてどんどん輸出される時で、銅の原型の上に 細い銅線や金銀線で図柄をおく人、ほうろうをかけて焼上っ たのを入念に水洗してみがきをかけていた人、そして名古屋 にあった陳列場に列んでかがやいていた大花瓶などの前にき た異人さんと、次々に少年時代のなつかしい幻が頭を往来し七宝についての専門の書はほとんどない。殊に日本の七宝 を系統的に述べたものはなく英人ガーナー氏の著に中国、日 本の七宝に言及しているぐらいのものだという。この点でま づ本書は日本の工芸史の上に貢献する所多しと喜びかつ誇り と感じる。本書は奈良前期とせられる牽牛子塚出上の七 宝装飾金具や正倉院の十二稜鏡から始めて、二百をこえる図 版をもって日本の七宝史を語る。実物の調査のみではない、 広く文献をあさって、足利時代に中国七宝の輸入が頻りに行 われ、七宝の名もこの時代に初見することを教え、この刺激 をふまえて慶長頃から日本七宝の製作が次第に盛となり、近 代日本七宝の世界的声誉をえるまでに飛躍発展したと、広い 学問的視野に立ち、世界の文化交流に留意してまとめられた 日本七宝史である。正に博物館技官が、美術界にまた社会に 贈る何よりの良心的な好著である。本著を敢て学界にも美術 界にも広く推薦して序とする。

表紙小傷、小汚れ。カバー周り小破れ。裏表紙下部小破れ。もちろん読む分には問題ありません。

なお細部に至るまではチェックしきれない場合がありますので、書き込み・線引き・記名・蔵書印・値札等ある場合があります。ご理解の上、ご購入下さい。