昭和61年　154P　
維新回天史を草するに当り、往年の拙著防長風土記が大いに参考になり、篇中の大田絵堂戦に就 いては故友小泉喜代一氏の著書に拠る。また維新殉難者の詩歌に就いては、靖国神社の資料、日本 近世漢詩撰、光風流吟道宗家広重光風氏の教本等を参考とした。

維新各事変に於ける長藩の殉難者は二千名に達する。これは日露戦争時に於ける山口県の戦死者 と同数であって、薩摩を遙かに引離して維新第一である。維新の功労者を薩長でなく、長薩と記し た所以である。

由来歴史とはその国にとって極めて神聖なもので、世界各国皆同じであるが、過去の単なる記録 よりも、先人の偉業を顕彰し、未来国民の啓発の資料となるよう主観によって編集されている。ま してや内政干渉よろしく、他国から注文をつけられる筋合のものではないのである。

本稿執筆中、昭和六十年八月十五日、中曽根康弘内閣総理大臣が、歴代首相として初めて靖国神 社に公式に参拝した。終戦四十周年記念の日に、全国民の熱い願望がようやく叶えられたのである。 大東亜戦争二百五拾万の英霊はもとより、当初靖国神社に合祀された、維新殉難者英霊に対する何 よりの慰霊である。国民の一人として中曽根首相に対し限りない敬意を表する次第である。 今年は昭和六十一年丙寅の年、慶応二年四境の役から百二十年目に当る。この記念すべき年に維 新殉難者慰霊のため、維新回天史を出版して広く世に贈る。幸い御一読を賜わり、維新回顧の糧と ならば、著者無上の光栄とするところである。 昭和六十一年丙寅元旦
著者野 村 春 畝しるす

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