昭和52年　299P

山上宗二記 やまのうえのそうじき

茶道の秘伝書。千利休(せんのりきゅう)の高弟山上宗二が既述されていた「珠光(じゅこう)一紙目録」や「茶器名物集」などの書を底本とし、利休流の茶風を追加して成書としたもの。宗二が意図したところは道具目利(めきき)と名物帳としての名器分類を果たそうとしたものであり、利休とその時代の佗(わ)び茶の本質を知ることのできる利休流茶法の秘伝書ということができる。宗二が天正(てんしょう)16年（1588）正月21日付で1子道七(どうしち)にあてた『伊勢(いせ)屋道七宛(あて)伝書』をはじめとして、『桑山修理大夫(しゅりだゆう)宛伝書』（同年2月27日付）、『雲州(うんしゅう)岩屋寺宛伝書』（同年2月27日付）、『林阿弥(りんあみ)宛伝書』（同年5月吉日付）、『板部岡江雪斎(いたべおかこうせっさい)宛伝書』（天正17年2月付）、『皆川山城守(やましろのかみ)宛伝書』（天正18年3月吉日付）などの諸本が伝えられる。

はしがき
天正十九年の二月二十八日に世を去っているから、その晩年期に書かれたものである。山上宗二は利休門 下の中で最も気骨に富んだ茶湯者であった。それに博識でもあった。彼は利休の死に先立つこと一年、天 正十八年の四月十一日、小田原陣中、秀吉のために斬刑に処せられた。その生涯は、桃山期の芸術家とし て、波瀾曲折に富んでいる。 利休流茶道の秘伝書といえば、これまで、利休の弟子南坊宗啓が記述したと 称する「南方録」をもって唯一の古典と見なしたが、 「南方録」は、近年研究の結果、後世茶人の仮託の 書ということが明らかにされた。玉ではなくて、石である。これに比べて、宗二記は、正確無比な利休流 茶道の宝典といってよい。
つい
小生は、この宗二記の研究に数年を費やし、その成果を、 表千家の機関誌「茶道雑誌」に三年間にわた って発表してきたが、こんど、同誌の出版元京都河原書店の懇望により、雑誌連載の分に更に訂正を加え 最近発見の宗二記の別本二種の奥書の解説をも添え、ここに単行本として完結を見た。この道に志す人々 の、新しきを知る上のたずきともしていただければ、著者の幸いこれに越したことはない。なお、巻末に は、南治好氏本をもととして、諸本によってこれに校訂を加えた宗二記の定本を掲げ、新発見の酒井氏本 と東大図書館本の奥書をも添えておいた。

昭和三十二年三月吉日
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