1980年　246P

Moths of Yakushima Island from a collection made during the surveys in 1964-1974

序
宮城県昆虫誌の第1巻 (蝶篇)のお手伝いで,杉・川辺両君と共に、頻繁に仙台通いをしてい た頃、休息中の雑談の折に、屋久島や対馬のような生物地理学上重要な島々の蛾相がまだ充分に解 明しておらず、このまま何年か推移し, 開発による自然の破壊が進めば,手おくれになる恐れがあ るなどということも話題となった. 離島に昆虫採集に行く人はいても、年間を通じて継続的に採 集することは,そこに住んでいない限り仲々できるものではない。残念ながら, 屋久島や対馬に住 んでいる人で,各月にわたって, 島内のいろいろな環境で蛾を採集した人はまったくなかった。 まさか遠く仙台に住んでいる渡辺氏が,両島に挑戦されようとは思っていなかったが,私たちの 期待は遂に実現したのであり,期待をはるかに超える成果を挙げたのである。
渡辺氏は、いくたの困難を排除して, 先ず屋久島での継続的な採集調査を計画され, 1971年から 1972年にかけて実行された. そして、毎月2週間の採集行で氏の持ち帰られた厖大な採集品は,渡 辺義汎氏の協力によって,一部が展翅され, 残りは三角紙包みとして, 分類順にだいたい整理され た。 私たちは,展翅品だけではなく, 三角紙包みの蛾も全部チェックして,同定の間違いを正した その場で解決できないものは,それぞれ持ち帰って, ゲニタリアを調べるなど, 同定にはでき る限りの正確を期して氏の努力に応えるように努めた. その過程で発見された新種や新亜種は,そ れぞれ専門家によって命名され, 本書に引用されている.
私たちの持つ日本産蛾類についての分類学上の知識は,決して完璧なものではないし,ことに現 状では種名はおろか、属名さえも決定できないものが,メイガのような小蛾ではかなり残ってしま った.これらについては,今後順次学界に発表されてゆく筈である.
従来の屋久島の採集品目録は,1~2週間の採集行で得たもの,あるいは2~3回の訪問による採 集品をもととしたものだし, 林道の奥深くまで夜間採集用具を持ち込んで, 早春から秋おそくまで 継続したものでなかっただけに,渡辺氏のコレクションには,未発見種が多かったばかりでなく, ごく僅かの個体しかとれていなかった,いわゆる珍種が,実は屋久島ではごく普通に産することの

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