昭和50年 39ページ

序文
「東京近郊に日本椿公園をつくりたい」(故安
達潮花氏)という熱意にほだされて、昭和四十 一年に富山を離れて上京、私はツバキに生涯を託すこと になった。
そのころはツバキ趣味が盛り上がりつつあるときで、 全国にツバキの会が五、六もあっただろうか......、地方 のツバキの基盤はこれからというころであった。
それから約十年、ツバキの会は三十を越えるまでに成 長し、同好者は中央でも地方でも大きい波紋をえがいて 広がりつつある。そのような熱気のこもったなかで、ツ バキの全国組織をつくる動きが、ようやく熟しかけてい る昨今である。
ツバキを好きになる理由はいろいろあろうが、いった ツバキの道に踏み込むと、不思議に、徹底的なツバキ 狂に陥る人が多い。ツバキの魅力、魔性は底が知れない。 このようなツバキ愛好家のあいだでは、最近、在来の 園芸種に加えて、洋種や種間雑種、原種についての意見 の交換も盛んで、話題の幅が広く豊かになってきた。そ れらのなかで、品種に関する話題が圧倒的に多い。
それは、品種に対する研究、調査が曖昧であることにも起因 するのであろう。
本書は、ツバキの原種と園芸品種の解説にマトをしば り、花形、花色、開花期、葉形、樹性、総合的な特徴な どを項目別に記載し、写真と並記して、品種の判別、選 択、収集など、読者の理解を助けるように配慮した。
収録したツバキの数は、アジア原産のツバキ属植物な ど三六種、日本の園芸種五六二品種、洋種一四六品種の 総計七四四種で、これにわずかでも解説した品種を加え ると、一、〇〇〇種を遙かに越えよう。
プロやセミプロ級の愛好家にも、これからツバキをは じめようという初心者の方にも、座右のガイドブックた らんことを目ざした。
原種や、海外のツバキを数多くとりあげたのは、もっ と広い視野から日本在来の品種を見直そうという、ささ やかな念願にほかならない。
本書の刊行にあたって、著者一同に代わり、編集を担 当された文化出版局書籍部の津久田一正氏、瀬川建一氏、 写真部の石橋重幸氏ほか、関係諸氏の御熱意と御努力に 深く感謝いたします。
桐野秋豊

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