2010年　92P 部数は少なそうです。資料用にもいかがでしょうか。

はじめに
今こういう 事情報を後代に残す方をモノに託した記憶装置ということにして、今回社会人類学部門創設五〇 周年を記念して、先輩たちに過去の出来事を記してもらったこの文集もまた、この種の記憶装置だと言える でしょう。
ところで、この種の記憶装置と対比的なもう一つの記憶装置として、 トピックとしては文化人類学的ともい える、つぎのような事例を挙げることができます。 それは、東アフリカやオセアニアの民族誌的事実、生まれ た子供への名づけの一方法ですが、ある子供が生れ、名を与えるに際し、その時点に起こった、たとえば大き なレイディングがあったとか、大飢饉で父親が死んだという出来事にちなんで、まさにそういう出来事記述を 含んだ名を与えるというものです。もちろんそれだけのことを言ったのでは、それまでのことですが、こうい う命名法のもとでは、たとえばどうしてお前は、また彼はしかじかの名をもっているのかと尋ねられた時、実 はしかじかのことが起こったからだと説明する手がかりがその名に託されているために、こういう方法でも過 去の出来事情報が次世代に伝えられることになる。 しかも同時代的にいえば、人々は、こういうさまざまな 出来事情報を担った年齢を異にする諸個人を順に見渡すことで、一種の年代記的出来事を眼前にしうること になるのです。
いまこういう方法を、さきのモノに託した記憶装置系と対比するとき、その情報のあり方に明らかな差異 が生じます。というのも、この方法での出来事情報の仮託媒体は、まさにやがては死すべき個人的身体です。 そのためこの記憶仮託媒体は、その人の死とともに、もはや呼ばれることのない無へと帰す。 そしてその無化 とともに、その個体に仮託された出来事情報も、想起されうる手掛かりを失い、やがては薄明のもと、集合 的な神話的世界に送り込まれて消え去ってゆくのです。もちろん人々はたんに消えてゆくだけでない。新た な生の誕生とともに常に共同体のメンバーは補充されます。そして彼らが、その誕生時に起こった出来事情 を担ったものとして、この記憶装置系の情報を補充するために、情報の新陳代謝が起こる。今こういう事 記憶装置内部での情報の時間幅という側面から記述すると、 新生子の担う〈いま〉の出来事情報を 起点とし、同時に長寿を全うして死にゆく人々の担った一定の〈過去>の出来事情報を終点としており、同時 情報を詰め込んだ、両切りのたばこの筒のようなものが、時の移行とともに移動し、先端部では補充を、 後部では消去を繰り返して、内容を変えてゆく姿が見えてきます。
そして、こういう出来事情報の記憶装置を、モノに託するものと対比して、人の身体に託した記憶装置 系と呼ぶことにすると、実は同じことが、わたしたちいずれの共同体でも起こっていることに気付きます。

お探しの方、お好きな 方いかがでしょうか。

中古品ですので傷・黄ばみ・破れ・折れ等経年の汚れはあります。表紙小傷、小汚れ。ご理解の上、ご購入ください。もちろん読む分には問題ありません。59891新