昭和61年153ページ

早稲田人形
今田人形
黒田人形
古田人形

序

民俗芸能の宝庫と、憧憬してやまない信州である。歌舞がおびただしくある
というのみでなく、種目にバラエティーがあり、内容に史的意義をもつものが 多いということだ。
人形芝居も、かねて、南信の伊那谷に文楽系のかおり高い逸品が、心暖かい 住民の手で育てられてきたことが、日下部新一先生などによって紹介され、世 間の注目をあびたが、一方、東信の佐久地方の山間にも、古風で典雅な人形芸 が伝承されていた。

小海町親沢の、通称人形三番叟がそれだが、昔はここでも文楽系の芝居を演 していたというのに、三番叟だけが、千歳・翁・三番叟をセットとする能の「翁 (式三番)」の構成と詞章をそっくり承け継いでいるのが興味深い。同じ佐久の 白田町湯原に、こちらは人間の演じる「式三番」があって、これとの関係も考 えられるが、とまれ、山国でありながら、都の芸術を存分に吸収しつつ、郷土 の土にまぶしておのが村の芸能に再創造する信州人の情熱の深さが改めて思わ れて、うれしい。
このたびの刊行も、そうした信州人の情熱の炎を、写真家宮本辰雄氏の鮮烈 なカメラアイを通して周知せしめたい願いがひとつはあり、かつは日本の人形 芸能が、単なる娯楽としてではなく、世の中よかれの祈りを基盤に成長発展を 遂げたものであることを、信州の事例から示したいとの願いも、編集者にはあ る。広く人形芸術に関心を持つ人々の閲読を期待したい。
(東京国立文化財研究所芸能部長)
三隅 治雄

表紙小傷、小汚れ。裏表紙数センチ破れ、テープ補修跡あり。ページ小黄ばみ。

なお細部に至るまではチェックしきれない場合がありますので、書き込み・線引き・記名・蔵書印・値札等ある場合があります。ご理解の上、ご購入下さい。