異国の客
池沢 夏樹
定価: ￥ 524+税

#池沢夏樹 #池沢_夏樹 #本 #日本文学／評論・随筆

フォンテーヌブローはパリの南約50キロ、電車で40分くらいの小都市である。日本で言えば、東京と鎌倉の感じか。・・・・・・。/フォンテーヌブローは、ヨーロッパ大陸の真ん中にある。というのは、たいていが地続きだということだ。車で少し行けば、国境というまったく人為的なものがあり、そこを超えれば―いまはEUだから、たいていのところは旅券など無用で行ける。彼は「この町に来て、大陸の連続感とそこに線を引きたいという衝動の両方を感じ取った」と言う。………。/

ロレーヌ地方に出かけて、エピナルという木版画で有名な町へ行き、そこのミュゼでジョルジュ・ド・ラ・トゥールの作品『妻に嘲笑されるヨブ』を見て感動した話。「二人の人生の一瞬を切り取っている。まるで写真のようだ。絵の中に会話がある。言っている言葉が聞き取れるかのようだ。宗教画一般が真理を求めるために超時間的になろうとするのに対して、この絵は永遠を放棄した上で、代わりに一瞬をきっちり捕らえようとしている」という言葉は、ド・ラ・トゥールの本質をみごとに言いあてているだろう。……。/

ひとりの敏感な作家が「異国の客」となったとき、どれほど詳細に異国の日々の生活を眺め、それから発して、フォンテーヌブローという街の社会的構造を考え、さらにフランス全土、ヨーロッパ、そして世界に起こっている事柄に思いをはせているか、それがじつにくっきりと語られているのである。
〈「解説」清水徹(仏文学者)より〉

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