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ブリティッシュ・インベイジョンを担った英国のバンドがほとんど再結成したのに対し、ゼムは一度も再結成することはなかった。少なくとも2つの理由が考えられる。リードボーカルのバン・モリソンがソロとしてあまりにも有名になり、ゼムのバンドリーダーだったことが忘れ去られているから。もう1つは、ゼムのメンバーは固定していなかったため、どの時期のラインアップで再結成すべきかわからないからである。ベルファストを拠点としたこのバンドは常に流動的だったが、それでも当時画期的であったアメリカ以外のリズム＆ブルース・バンドの元祖として、アニマルズやローリングストーンズと肩を並べる存在だったのである。

本作は短命だった彼らの完全な記録。ディスク2枚分に50もの名曲がズラリ。「Stormy Monday」「Turn on Your Lovelight」「I Got a Woman」といったR&Bの定番に加え、モリソンがソロになってからしばらくライヴのレパートリーにしていたオリジナル「Gloria」や「Mystic Eyes」まで。さらに注目はジミー・ペイジのギターソロをフィーチャーしたパワフルなヴァージョンの「Baby Please Don't Go」、ボブ・ディランの「It's All Over Now, Baby Blue」の斬新なカヴァー（ベックのファンは『Odelay』で使われたサンプルを思い出すだろう）、そしてポール・サイモンの「Richard Cory」など。モリソンのソロの作品もすごいが、彼がまだ駆け出しのロッカーだった頃の栄光ももっと注目すべきだ。