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抱く女

本書の場合1972年という時代の事件、学園紛争と内ゲバ事件、一方でノンポリとウーマンリブが主人公直子の生活に色濃く影響しています。彼女は、当時の日本社会の女性蔑視に腹を立てており、男子学生に交じって麻雀に明け暮れ、飲みに行って、なんとなく複数の男たちと寝ます。彼女は「男を抱いている」つもりですが、そんな彼女を男たちは「公衆便所」などと呼び屈辱を感じるのでした。背伸びしてウーマンリブの集会に参加しても、今度は同性である女性からプチブルだと白眼視され、居場所がありません。大学にもいかず、バイト先のジャズ喫茶でもマスターや同僚とうまくいかず居場所がなくなった直子は、夜の新宿で行きずりの男についていく自堕落な生活にまで落ちていくのでした。さらに学生運動に身を投じていた兄が内ゲバで殺されるに至って救いのなさは最高潮に達します。　　　　　　　　　　　　　　　　　

1970年初頭の社会情勢をうまく取り入れた「戦後の紛争小説」として価値があると思います



デンジャラス

文豪 谷崎潤一郎を取り巻く家族の物語です。

　さて、従って主人公・重子は実在する人物で、谷崎潤一郎の義妹であり、『細雪』の雪子のモデルです。姉の松子同様、その名作を作成するため谷崎をインスパイアーしていることを誇らしく思い、生きる支えにしていました。女ざかりの松子・重子姉妹に支えられた谷崎王国の安泰は、松子の連れ子・清一の妻（嫁）千萬子の登場で大きく揺らぐのでした。松崎は義理の息子誠一は要らないのですが、その男の嫁は欲しいのです。かくして新しく松崎が発表する小説に登場する女性が明らかに千萬子をモデルにしているのを知りもう自分の存在意義はなくなったのだろうか焦りを覚えるのです。そして老いを迎えた松崎はこの若い嫁に執着するにつけて、いてもたってもいられません。

　史実に裏付けられた物語という意味では歴史小説の分類に入れてもいいと思いますが、呪詛が行間から染み出してくるような女性の心理を書かせると桐野さんは上手いなぁと思います。