谷崎潤一郎
新潮日本文学アルバム

天才の名をほしいままにした少年時代、自然主義全盛の”曇天”のなかで絢爛と咲いた牡丹の花、最晩年まで女性の美と魔性を通して恋愛の絶対性を追求し、女性崇拝の永遠像を描きつづけた大谷崎79年の生涯。


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谷崎の作品を、他の主要な現代日本の諸作家の作品から際立たせる最も顕著な特徴は、書くことそのものへの専心にあるだろう。彼の小説は告白的でなく、いかなる哲学も主張せず、倫理的でも政治的でもないが、文体の大家の手で豪華なほど精緻に作られている。人生いかに生きるべきかの知恵や、現代社会の罪悪に関する鋭敏な分析などを求めて谷崎を読む者は一人もいない。文学なればこその喜びや、人間にとって永遠不変な事象の反映(それは谷崎の最も風変わりな作品にさえ見出し得るものだ)を求める読者にとって、谷崎を越える作家を発見することまずもって不可能であろう。
〈ドナルド・キーン『思い出の
　　　　　　　　　作家たち』より〉

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天皇(桐壷帝)の息子(光源氏)が、義理の母であるお后(藤壺)とあやまちを犯す。それだけでも「大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス」という天皇制の神聖さを汚す内容である。なおかつ、そのあやまちの結果、罪の子が誕生し、その子が天皇(冷泉帝)として即位するというのだから、天皇制への冒瀆と不敬はここに極まる、というのが軍部などの近視眼的な発想である。
『源氏物語』は、不義密通と三角関係などの「恋のあやまち」をひたすら描く。それでいて、「日本文化の最良のエッセンス」として常に芸術家の目標となってきた。谷崎文学もまた、「魔性の女に翻弄される男」という「いびつな性愛」ばかりを追い求めている。それでいながら、時代を超えた「美学」を打ち立てた。一見すると「不道徳」だが、深く読めば「人間の心の真実」がわかってくる。そして、作品の書かれた時代の価値観を笑いのめす。まさに、「前衛小説」である。
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〈新潮社『文豪ナビ谷崎潤一郎』
　　　　　　　　　　　　　　より〉


蛇足ながら、谷崎潤一郎は無類の猫好きでした。……


美品