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虚構の砦

　中東で日本人が誘拐されたという情報をいち早く得た、民放PTBディレクター・風見は、スクープにしようと、現地にいたフリーの記者に連絡し、外務省や官邸の動きを探るのですが、現地記者も現地で捕らえられ、テレビ局内外からの予想外の抵抗を受けます。一方、高視聴率をたたき出していたバラエティ番組の敏腕プロデューサー・黒岩は、次第に視聴率に縛られ、笑いの本質を見失っていて苦悩します。二人のテレビマンの苦境を通して、巨大メディアの内実を読者にわかりやすく読ませてくれます。

　人質事件に対し政府は「人質たちの自己責任」だと主張します。政府、外務省による取材妨害にさらされる民放。そうこうするうちに風見の所属する民放PTBが粉飾決済の疑いで検察から攻撃されるようになってきます。ペンはなかなか剣には勝てないという事実がスリリングな展開で描かれます。



黙示

物語の発端はドローンによって散布されていた農薬が事故により子供たちの頭上に撒かれて健康被害を起こすという事件です。これをきっかけに農薬は安全なのかという世論が沸騰し、農薬開発者の平井宣顕は苦境に立たされるのでした。またこの農薬によってミツバチがいなくなるという事件も起きて養蜂家とも軋轢が生じます。それを機に農薬を禁止して代わりに害虫に強い作物を遺伝子組み換えで開発しようとたくらむ米国資本。

　農薬開発者、養蜂家、農水官僚といった、それぞれ立場が異なる登場人物たちの視線から農業の問題を浮き彫りにして、そのすり合わせを求めようとする姿が描かれています。彼らに遺伝子組み換え作物を広げようと企てる米国企業トリニティ、それを後押しする野党議員が絡み合って理想と現実、それぞれの正義が交錯します。問題山積なのに正解がない食糧問題。安全を取るか飢餓に苦しむ人を目の前にしてそんな悠長なことを言っていられるのか。今そこにある危機の物語です。