チャイコフスキー

交響曲第6番「悲愴」



指揮:エフゲニー・ムラヴィンスキー

レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

録音:1982年10月17日 ライヴ



ムラヴィンスキーの『悲愴』は1960年録音のドイツ・グラモフォン盤が最も有名ですが、これはそれから22年後の最晩年のライヴ録音です。最晩年といっても、やはりムラヴィンスキーらしい、枯れた印象は全くなく『鋼鉄の悲愴』とでも呼ぶべき全く甘さを感じさせない名演です。すさまじいフォルテ、身を切るような冷厳な解釈、ムラヴィンスキーは最後の最後までムラヴィンスキーだったことが確認できます。もちろん終楽章は、あくまで暗く、悲しく、感動的に終わります。



ジャケットのムラヴィンスキーの衰えた顔を見た時には、不安になった。垂れた頬、顎は皮膚が辛うじて骨に付着しているだけだし、恐らくは義歯なのだろう、ふがふがとしか喋れないのではないか、あの往年の眼光の鋭さがすっかり失せている。だがムラヴィンスキーが最も得意とした音楽のひとつであったであろうこの曲を聴き始めた途端、それは杞憂であることにすぐ気がついた。ライヴだから、やや荒々しいけれども、けれども整然としていた1960年11月の録音では欠けていた迫力がある。きっとムラヴィンスキーも、この手兵のオーケストラも、この作曲家、この交響曲を演奏する時には、いかなる時でも他の追随を許さないものを持っていたのだろう。それからこの曲が録音された1982年と言えば、ムラヴィンスキーは既に80歳を目前にしていた。名指揮者と評価されていても、これから幾度この曲を指揮できるか、さすがのムラヴィンスキーも感じていたに違いない。他の指揮者、オーケトラでは味わうことのできないすばらしい演奏である。この録音が残されていることが分かってから、CD化する交渉に10年以上も掛かったと言う。この録音ほど迫力のある「悲愴」は、恐らく多くないだろう。ぜひとも聴いて頂きたい。



国内盤【廃盤】帯無し、盤面傷無し　



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