エル・アレフ

ホルヘ・ルイス・ボルヘス / 木村栄一

平凡社ライブラリー



表題作のほか、「不死の人」「神学者」「神が書き残された言葉」などを含む、ボルヘス中期の短篇集。アルゼンチン性とヨーロッパ性が目眩く博識によって結び合わされ、円環的な時間が織りなす独自の宇宙が読者の眼前に顕れる。最良の訳者が誘う、ボルヘス的迷宮の白眉。『不死の人』新訳。



表題作の他、全17の作品から構成される短篇集だが、「伝奇集」と並ぶ傑作と称されるのが充分頷ける圧倒的な作品である。各編が位相幾何学的構成を意識した、<時間の循環性(=輪廻と呼んでも良い)>をテーマとしている点は「伝奇集」と同様だが、本作ではそれに、<信仰>、<記憶と幻想>、<忘却>といったテーマを付け加えている様である。

各編の時間軸は自在であり、この世は永遠であると同時に一瞬でもあり、永年の後に真理を悟ったかと思ったら、その人物の時間は終りを告げる。しかし、その人物は(例えば)数千年の時を経て(<記憶や幻想>の内に)甦り得るが、その2人は決して同一人物ではない......といったモチーフが繰り返し語られる。中南米作家の所謂"マジック・リアリズム"の源泉とも言える、読み手に"迷宮"を彷徨うかの眩惑感を覚えさせる、まさに"ボルヘス・マジック"である。特に、ポーのパステーシュでミステリ・タッチの「アベンハカン・エル・ボハリー、自らの迷宮に死す......」の舞台が"迷宮"そのものである辺りはシャレている。

また、「神学者」、「神の書き残された言葉」といった<信仰>を扱った短編が多いのも特徴で、そこには作者の敬虔の念が溢れている。作者は言葉によって神に仕える囚人の如くである。そして、巻末に配された表題作はダンテ「神曲」に想を得た由だが、作者自身の<記憶>や執筆・評論活動といった身近な話題の中で見事に昇華している(と思う)。「エル・アレフ」と呼ばれる<宇宙=神>や<無限>の圧倒性の象徴を垣間見た作者の<忘却>の希求を描いて凄まじい印象を残す。（レビューより）



#文学

#スペイン文学

#信仰

#民話

#伝承

#短編集

#小説

#本

#BOOK

#思い出本屋

#思い出本屋西洋文化

#思い出本屋宗教

#思い出本屋天使

#思い出本屋悪魔

#思い出本屋魔女

#思い出本屋動物

#思い出本屋植物

#思い出本屋西洋文学

#思い出本屋事典・参考書