縦約96ミリ✕横約93ミリ。重さ約148ｇ。厚さ約2ミリ。鉄地。
　
江戸時代初期と推定されるキリシタン鐔です。ごく薄手の刀匠鐔で所々に錆痕がありますが、ほとんど使用痕がありません。

長年鐔を収集してきましたが、確実に十字架を刻んだと思われるキリシタン鐔は２点しか入手できませんでした。そのうちの１点です。

キリシタン鐔といってもその多くは、島津家の家紋のようにデザインとしての十字にすぎないものがほとんどです。キリシタン遺物人気ゆえ、近代の贋作も多い世界です。この鐔も購入時には茎穴の鋭い切り口が気になりました。　

キリシタン鐔がごく希少なのは江戸初期のキリシタン禁令（1612年）のせいで、気まぐれで緩めの桃山期の秀吉の禁令に比し、江戸幕府は露見すると死罪というはるかに厳しいものでした。

この鐔に使用痕がないのも、大っぴらに日常使いしていたら、同僚の武士にばれて家族もろとも死罪は確実だったからではないでしょうか。おそらく油紙に包んで先祖の大事な遺品として箪笥の奥に隠されて、代々伝世してきたのではないかと思われます。　　

この鐔の時代比定に悩んでいた頃、ちょうど東京美術倶楽部の展示会があり、古伊万里の中に見事な紺の染付で十字架を見込み部分に描いた、ほぼ未使用の皿を見つけました。（250万円位だったので勿論買えませんでした）

その御主人に時代を尋ねたところ、やはり江戸初期の古伊万里で、公にキリシタンとばれると打首物なので、未使用のまま仕舞っていたのではと説明され、我が意を得た思いがしました。

この鐔の切羽台にはラスト２カットに掲載したように、ごくわずかな期間に刀身を固定した、はばきの台尻がはめこまれた跡が残っています。

また十字架を打ち抜いた断面も時代を経てきた自然な錆具合です。耳の錆びた朽ちこみも自然な薄手の刀匠鐔です。

ただ江戸初期からの400年間を普段使いで摩耗してきた形跡はほとんどなく、まるでタイムカプセルの中に封印保存されていたようです。

以上がこのキリシタン鐔にまつわる考察の全てです。最後はキリシタンが神を信じるように、骨董の美や真偽もそれを信じるかどうかにかかっているのかもしれません。

高額商品になりますので、ご購入は重々慎重にご検討なされた上でお願いします。