地方の古い家に残されていた、真鍮製の方位磁石です。本品には、東西南など漢字で記載され、昭和初期、戦前の方位磁石に見られる、十二支の記載はありません。戦時中、あるいは、戦後の比較的早い時期の製造のように考えられます。方位は、現在も適切な方向を指します。
　表の面にはガラス板を用い、側面に下には、ベルト止めが２カ所あり、腕時計のように使えるようになっています。また、ガラス板周りの真鍮製の輪では、輪の周囲に縦線の切り込みがなされ、ガラス板を動かすことができます。ガラス面に示された矢印に、方位針を一致させるための細工です。
　また、本品側面には、大きめのボタンと小さな突起が施されています。小さな突起は、下に動かすと、中央の赤いガラス部が上がりガラス板に固定され、ガラスに記された方位に方位針を一次的に固定できます。他方、大きなボタンは、時計回りに動かしますと、赤いガラス部が上がり、方位を示す針が固定され続けます。戻るためには、ボタン逆に回すことになります。
　本品は、針以外はプラスチック製という、最近の方位磁石に比して、素材である真鍮に刻まれた縦線、側面のボタンや突起、ベルト止めなど、人手を掛けた職人の細工に込められた、昭和レトロの真髄と日本産業の優れた製造の伝統が、懐かしく伝わってきます。
　サイズ；上部　径　約33㍉　厚さ　約11㍉強