ロストロポーヴィチ＆ＬＳＯ／ショスタコ８番

ショスタコーヴィチの交響曲第８番は1943年に作曲され、初演は同年11月４日にムラヴィンスキー指揮ソヴィエト国立交響楽団によっておこなわれ、初演者ムラヴィンスキーに献呈された作品。同じ年の２月にドイツ軍がスターリングラードで潰滅、翌年１月にはレニングラードが解放されるなど、第ニ次大戦が終結へと向かう重要事と重なったためか、かつては「スターリングラード交響曲」と呼ばれたこともありました。
　アメリカでも大評判を取るなど世界的な名声を博した前作『レニングラード』交響曲と比べてけっして見劣りしない巨大作ですが、この第８番の深刻かつ重厚な世界は、第７番『レニングラード』とはまるで表と裏のようでもあり、「ソ連が負けている時に第7番のような明るい交響曲を作曲して、勝ち始めたら第8番のように暗い交響曲を作るとは」と政府筋から非難されもしたそうで、それだけに、共産主義体制下でままならぬ創作を続けざるを得なかったこの作曲家の真情に近い作品として、ショスタコーヴィチのファンや交響曲好きの間で、近年非常に人気の高い作品となっています。
　もちろん、そうした理屈を抜きにしても、巨大編成のオーケストラによる豪壮なサウンドを有するこの作品は大変にインパクト絶大。低弦の重く激しい響きに始まる第１楽章の、長大壮烈なドラマを思わせる展開や、２つのスケルツォ楽章での嘲笑の切れ味、薄明のようにはかない終結部が印象的な終楽章など、サウンドと表現の多様な面白さがこの作品の魅力でもあります。
　ロストロポーヴィチにとって、この曲はワーナーでの全集録音に次ぐ二度目のもの。生前の作曲者との親交でも知られ、チェリストとしても長年その創作に深く関わってきたロストロは、いまやショスタコーヴィチのスペシャリストというべき指揮者。ロンドン響とは過去に第11番と第５番をリリースしていずれも好評を得ているだけに、今回もおおいに期待させます。
　


・ショスタコーヴィチ：交響曲第８番ハ短調 op.65
　ロンドン交響楽団
　ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ（指揮）

　 　2004年11月3,4日、バービカン・センターでのライヴ録音