モーツァルト

①ピアノ・ソナタ 第8番 イ短調 K.310

②ピアノ・ソナタ 第10番 ハ長調 K.330



クラウディオ・アラウ（ピアノ）

録音：1984年9月ハンブルク



テンポがたいそうゆっくりのアラウの演奏です。でもアラウのピアノの音色は非常に優しい。例えば、非常に鋭角な音で響くリリー・クラウスなどに比べると、実にまろやかで丸みを帯びた優しいピアノです。「無骨で重々しいアラウ」には、モーツァルトは不似合いであると言われますが、この落ち着いたテンポで、モーツァルトの音楽を優しく語りかけてくれるアラウのピアノには本当に癒されます。この2曲もモーツァルトの曲の美しさが滲み出る演奏です。遅めのテンポと丸い音色が、実に合っていますし、それが詩情あふれるこれ以上の優しさがあろうかという演奏になっています。速い楽章ではそれなりに躍動感もあります。技巧の衰えもなんのその、味わい深いモーツァルトです。最晩年のアラウの慈しむようなモーツァルト、一度体感すれば抜け出せなくなります。



アラウのモーツァルトは、古典派というよりはロマン派的、ウィーン風というよりはドイツ風かも。ゴツゴツとしたマルカート気味のタッチと起伏の多いアーティキュレーション、遅く揺れの多いテンポが独特。軽快で流麗というよりは、重た目のリズムで、骨格がしっかりした、いささか無骨なモーツァルト。モーツァルトにしては、ちょっとどころか、随分変わったところがある。それにしても、不思議な透明感と親密感が漂っているのは、アラウの晩年のデジタル録音に共通した特徴。



アラウの晩年のデジタル録音は、どれも音がとても美しい。このモーツァルトでもそれは同じ。若い頃の力強さは影を潜めた代わりに、音にも演奏にも柔らかみがあり、しっとりした儚げな憂いが漂っている。ずっと聴いていると、ピアノの音がまるで語りかけたり、歌っているように、だんだん聴こえてくるのが、ちょっと不思議な感覚。アラウのモーツァルトは、一音一音を吟味し、音楽を語るように演奏しています。それぞれの音は完全にその役割を果たしており、鳴り響く音楽には曖昧なものはありません。ずしりとした存在感のあるモーツァルトです。



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★盤面少しすれ目立ちますが再生問題無し



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