夢のなかの夢
和田 忠彦 /アントニオ・ タブッキ
定価: ￥ 540+税

20の夢を綴った連作断章短篇の全訳

『インド夜想曲』『逆さまゲーム』『供述によるとペレイラは』など著作多数(上記３作は須賀敦子訳)

現代イタリア文学の鬼才タブッキ（1943―2012）が，敬愛する芸術家たちの夢を夢想する――．ラブレーはパンタグリュエルと食事をし，ゴヤは自ら描いた絵の中を次つぎと通り抜け，スティヴンスン少年は，将来自分が書く小説を山の頂で発見する．夢と夢が呼び交わし，二重写しの不思議な映像を作りだす，幻想の極北．1992年刊．

タブッキは、イタロ・カルヴィーノとウンベルト・エーコと並んで、20世紀イタリアを代表する作家である。1943年9月23日にイタリア中部トスカーナ地方の小都市ピサで生まれ、2012年3月25日朝、リスボンで68歳と6ヵ月の生涯を閉じた。

……、藍色の表紙に、あわい色調のピエール・ド・シャヴァンヌの「夢」の一部分をあしらった美しい書物、本書『夢のなかの夢』のなかで、タブッキは、自分の愛する芸術家たちがどんな夢を見たかを想像し、でっち上げ、仮説を立てることによって、かれら一人ひとりに捧げる夢のオマージュを織り上げていく。オマージュは同時に、タブッキがその芸術家をどうとらえているかを示す批評でもある。……

……、かれの研究対象でもあり、かれにもっとも影響をあたえた今世紀ポルトガルの詩人、フェルナンド・ペソアを例に見てみよう。
‥略…。
ペソアについて、タブッキには、訳詞集のほかに、2冊の書物と１冊の戯曲集がある。１冊は『人でいっぱいの鞄』と題されたペソア論を集めたもの、もう１冊は、ペソアの引用200のコラージュから成る『詩人は変装の人』である。
…略…。
　””ひと言で現代芸術の主要な特徴を要約しようと思えば、それは「夢」という言葉のなかに完璧に発見できるだろう。現代芸術とは夢の芸術なのだ。”(170)
　”現代最大の詩人とは、夢の能力を最大に備えている人物のことだろう。”(171)
こうしてアフォリズムめいたペソアの言葉を編みながら、タブッキのなかに、みずからの「夢の能力」を試してみたいという欲望がふくらんでいったとしても不思議はない。……
〈「夢の痕跡、夢のほんとう
　　　　　　―解説に代えて」より〉

美品