人はなぜ「美しい」がわかるのか
橋本 治
定価: ￥ 860

人はなぜ、「美しい」ということがわかるのだろうか？自然を見て、人の立ち居振舞いを見て、それをなぜ「美しい」と感じるのだろうか？脳科学、発達心理学、美術史学など各種の学問的アプローチはさまざまに試みられるであろう。だが、もっと単純に、人として生きる生活レベルから「審美学」に斬り込むことはできないだろうか？源氏物語はじめ多くの日本の古典文学に、また日本美術に造詣の深い、活字の鉄人による「美」をめぐる人生論。


世間には「性格美人」という言葉もあって、この言葉の意味するところは、「容貌は美しくないが、存在は美しい」であろうと思いますが、だったらそれは、「魅力的」とか「愛嬌がある」ですむことです。そこに「美人」という言葉を組み込んでいるところに、なんらかの下心を感じます。
「美人」というのは、所謂「容貌が美しい」で、「容貌が美しくない」を前提とする人が、一周遅れで「容貌の美しい人」という称号を獲得しようとしているところが浅薄です。つまり「性格美人」という言葉には、「″容貌は美しくないが存在は美しい″という質の容貌の美しさを狙う存在の醜さ」が隠されているということです。どうも人間というものは、そうまでして「容貌の美しさ=美人」という称号を手に入れたいものらしいです。

……「美人コンテスト」という当人にとっては真剣、周りにすれば「お遊び」でしかないものもあります。ちょっとした贅沢が可能になっただけで、自分を、制度上はもう存在しなくなってしまっている「王侯貴族」の類と同一視して、それがあった時代の「制度的な美」へと回帰して行く………
〈第2章 なにが「美しい」か　より〉

孤独である人の多くは、自分が孤独であることを意識しません。それを意識したら、「この状態からなんとかして脱出しよう」と思うのが孤独で、孤独であることに平静でいられることの方が不思議なのです。でも、どう見ても孤独でしかないのに、平静でいられる人はいくらでもいます。つまり、孤独であることに気がつかないのです。それも不思議ではないというのは、孤独が「時間の停止状態の中にいること」で、停止している時間の中にいる人に「時間を意識しろ」と言っても無駄だからです。
〈あとがきのようなおまけ　より〉

美品