現代に生きる織　北村武資　1989年　背表紙部分やや色あせ。表紙小汚れ。ページ小黄ばみ

北村武資 きたむら-たけし

人間国宝。京都出身

1972年に、当時発掘されて話題となっていた馬王堆1号前漢墓の、 写真による出土品展 を見て、鮮明に写し出された羅の魅力に惹かれたのが契機となった。 更に翌年夏、京都国 立博物館で「中華人民共和国出土文物展」 が開かれ、 写真で見た羅を眼のあたりにし、改 めてその軽やかな高雅な美しさに感動を受けた。 そしてこの年の日本伝統工芸展にく羅 菱 華> (織布 羅として出品18) を完成して出品しているのである。 羅の復元を思い立って 一年余のことであった。 古来困難とされてきた羅も北村さんにかかると、いとも簡単に復 元されてしまった感があるが、この技法を解明した資料も少なく、僅かな図書や先人の様 々の知恵をたよりに研究を重ね、努力を傾注して成しとげられた仕事だった。 北村さんは 独自の機と特殊な綜絖を考案して経糸を綟ることに成功したのだが、これに大きなヒント を与えたのが、先のく羅文帛> で用いられた、 櫛のような筬であった。 これも北村さんの 創意工夫によるものであった。勿論、中国やわが国の古代の羅とは機も道具も異なり、 織り上げられた羅は、北村さん独自の羅と言ってもよいものであるが、古くに織られた、 あらゆる羅を復元してみせ、 注目と評価を集めた。
しかし北村さんはいつまでも、 復元した羅の技術に止まってはいなかったが、それで得 た自信はその後の仕事に大きな意義があったようだ。 やがて、 この羅に平金糸を打ち込ん だ羅金へと仕事を膨らませ、さらには経錦へ、そして羅経錦へと展開されてきているが、 羅という高雅な織 経錦という豪華な、 と言っても北村さんの場合、単に絢爛豪華なので はなく、抑制の効いた品格のある豪華さではあるが、この華やかな織が大きく北村さんの 仕事振りを高い位置へと引き上げている。
その織り手としての少年時代に、常に向上を目指して来た心は、織物作家としての地位 を確立した今も持ち続けられている。 わが国や中国の古い織物を手がかりとしながらも、 今日に生きる自らの織物を目指す北村さんが、 今後もどのような美しい織を展開してくれ るのか、大いに期待するものである。