昔のミセス

金井 美恵子

幻戯書房　2008



70年前後の雑誌「ミセス」を読み返し、今とのズレをめぐって、ビターな甘さ全開のエッセイ集。溢れるユーモア、こぼれる愛、さえわたる舌鋒。

官能的なまでに五感の記憶を揺さぶる。



なんていいタイトルだろう。

これは『ミセス』という雑誌のバックナンバーを題材にしたエッセイ集で、着るもの、食べるもの、家具、小物、そのときどきの女優や男優といったなじみ深い物や事、大抵の人にとって身近な物や事をめぐって書かれた本。あいだあいだに『ミセス』の当該ページの写真が載っているので、ああこれ、これ、と呟（つぶや）いたり、懐かしがったりもできる。

この本を読むと、いろいろなことを思いだす。子供のころに住んでいた家の階段やミシンの音、母に縫ってもらったワンピースの柄、飼っていたシャム猫のノラ、電気ポットに入れられた氷水、ピアノの上にかけてあった白いレース、その部屋の夕方の仄暗（ほのぐら）さ、お客様用の紅茶茶碗（ぢゃわん）――。それらはもちろん個人的であると同時に大変婦人雑誌的、というか『ミセス』的なあれこれなのだけれど、でも『ミセス』のバックナンバーを揃（そろ）えて眺めたところで、喚起されはしない記憶だ。金井美恵子という人の、十全に豊かでこなれた日本語が、帯の言葉を借りるなら「繊細かつ大胆」に喚起する記憶。

雑誌の記事や写真、そこから読みとれる風俗や時代、をめぐって書かれたこの本は、けれどもちろん文章について、言葉について、その喚起力と吸引力、風味とおもしろさ、また果てしなさについて、書かれた本でもあるのだ。（江國香織）



写真のように公民館除籍本です。

ご理解のほどよろしくお願いいたします。



売り上げは難民支援をしているUNHCR（国連高等難民弁務官事務所）に寄付させていただきます。どうぞよろしくお願い申し上げます。



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