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猫泥棒と木曜日のキッチン

母子家庭で種違いの5歳の弟がいる高校生のみずき。ある日、突然お母さんが家出して、姉弟は捨て子となってしまいます。ここで途方にくれない主人公・みずき。「すべてを飲み込んで」健気に2人で生きています。毎週木曜日には同級生の健一君を招いて『擬似家族』で夕食したり、学校にはきちんと通って家事洗濯。お金は？と思いますが、後にわかることですが1年分くらいは母親が残してくれていたらしいのです。

そんな中、道路の真ん中でみつけた仔猫の轢死体を家に持ち帰り庭に埋葬してあげます。その道路では多くの子猫がひき殺されており、まもなく庭は墓標だらけになるのでした。そのうえ段ボールの中の子猫の腐乱死体をみつけたみずきは、仔猫たちの姿に自分を重ねて、思い切った行動に出るのでした。それが猫泥棒。

　重たくて、切ない物語ですが、恋愛シーンやエッチシーンもあって、一見タフそうに見えても実は揺れ動く少女の心情をヴィヴィッドに描きます。



流れ星が消えないうちに

　本作が他の恋愛小説と異なるのは、進行形の恋愛事象を描くのではなく、恋人を喪った女性の心情を描くという新しい視点の恋愛小説になっている点です。

　幼馴染で相思相愛の主人公奈緒子と加持でしたが彼が旅行先で頓死します。物語全編にわたって加持君の思い出がちりばめられていて、奈緒子はいまだ亡き加持君を忘れられません。

一方、同級生の巧は高校時代から加持とは親友関係です。奈緒子に好意を持っていた巧は加持の死後、落ち込んでいる奈緒美を元気づけ、新しい恋人となるのでした。しかし巧の心の中にも、奈緒美の心の中にも家事の思い出は生き生きと息づいていて、2人の関係はぎくしゃくしたものです。

そんな中、妻と喧嘩して家出してきた奈緒美の父親や、それを追いかけて上京してきた妹などが登場し、巧と加持との関係にも少しづつ影響を与えていくのです。

奈緒美の視点での叙述と、巧の視点での叙述が、一章ごとに交互に描かれる形になっていて、2人の揺れ動く心の機微が丁寧に描かれています。