多田亮三郎
ガロ」の復刻じゃない
この本は「ガロ」の解説本でも復刻本でもありません。

1960~70年代に「ガロ」に夢中になった男が、それから50年経って書いた漫画と、同じような男との対談が載った本です。

そういう意味では「ガロ」についてだけではなく、「ガロ」がもたらした「文化」と「センス」を踏まえた2人の男の、思いつくままの茶飲み話です。

（ここからちょっと面倒くさいことを書きますよ）

「ガロ」によって「文化」を知った人の本
しかし特記したいのは、当時の「ガロ」はただの漫画誌ではありません。

1960年前後に、20代だった多くの若者は、戦中の「欲しがりません勝つまでは」の価値観が崩壊し、同時にアメリカから移入された「自由主義」にも何となく胡散臭さを感じていました。

しかしその一方で「安保反対」のデモに参加しても、喫茶店にたむろしてマルクス主義について知っていることを全部動員してコーヒー一杯で延々と議論しても、何の充実感も感じられませんでした。

そこへ「ガロ」が登場しました。

若者たちは、「ガロ」の漫画やデザイン、あるいは記事の中に「面白くて不気味なるもの」「下手こそ上手い」という新しいセンスを発見し、自分たちの「依って立つところ」を得た、ということはかなり確かなことです。

結果的に「ガロ」は、いわゆる団塊の世代（イヤな呼び方ですが）の教科書になりました。

もちろん、「ガロ」はファッションや男性がデートの予備知識として読む教科書ではありません（そういうニーズには「POPEYE」や「MEN’S CLUB」がありました）。

そして「古臭い」本でもありません。むしろ現代でも、あるいは若い人でも十分に「面白がれる」本です。

ガロは「面白がり」の視点を教えてくれる
つまり「何を、どういう視点で、味わうと面白くなるのか」ということを、年齢を超えて教えてくれる点で、「ガロ」はまさに「バイブル」なのです。

平穏に暮らしている日常の空間に、不意に現れる亀裂にうっかりはまり込むと、何だか薄気味悪いけれど、同時に面白くもある「異界」を、見せてくれる本だとも言えます。