「行為と規範」
黒田 亘　東京大学教授　文学部哲学科
￥ 2650

行為の基本構造をめぐる問題群を整理、倫理学の再建へ向かう。

第1部では放送大学のテキストとして元来著された「行為と規範」をそのまま収録。第2部はそのテキストに対する専門的注記としての論文3編から成る。行為の基本構造をめぐる問題群を整理し、倫理学を再建する。

「行為」と「規範」という2つの概念を分析しつつ、倫理学における幅広い問題を論じる。「行為」と「規範」「価値」が重要なテーマ。

「1・行為と規範」「2・志向性と因果性」の二部構成

論述の途中で、アンスコムの『インテンション』に登場する「意志行為」が、さまざまな角度から批判的に検討されていました。意志の働きを意識しなくてもできる行為はいくらでもあることなどを理由に、黒田氏は行為の基準を意志に求める考え方に懐疑的です。規則や習慣などの「規範」を基本にして行為を論じているところが、論述全体の大きな特徴。

「1・行為と規範」は、もともと放送大学のテキストとして執筆されたものです。倫理学を代表する思想家（カントやアリストテレスなど）や、倫理学の重要概念（自由や正義など）が幅広く論じられています。

「ひとはみな社会的規範に従いつつ、それぞれの個性と力量に応じた価値の実現を目指して生きる。また、それ以外に生きようのない存在である。しかも規範への服従と、個性的な価値の実現とは、幸福な予定調和の関係にあるとは限らない」(p.33)と黒田氏は仰います。「規範への服従」と「個性的な価値の実現」という観点から倫理学上の見解の対立を見ると、ずいぶん見通しが良くなることに驚きました。
「2.志向性と因果性」は、黒田氏独自の見解が多く含まれた3つの考察から成ります。どの考察でも後期ウィトゲンシュタインにまつわる高度な論述が読めます。黒田氏はアンスコムらの反因果説に反対し、行為を因果的に説明しようとします。ウィトゲンシュタイン中期と後期における「原因」の意味の違いを論じる最後の考察は、未完ですがとても参考になりました。

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