【レビュー】
理屈は難しいが説得力は高い
プレートの沈み込み時に溜まった歪が開放される時に起きるとされる、現在の地震の発生メカニズムの学説に違和感を抱いた著者が、地震時に発生することのある発光現象や群発地震を説明できるものして立てた説が「水素核融合説」である。
著者は常温核融合研究者の研究会「個体内核反応研究会」の会員であり、論文も複数発表している。
そして、プレートの境界にある水が地殻に含まれる金属と接すると、水が水素と酸素に分解し、酸素は金属を酸化、水素は原子状で蓄積され、それが圧力と温度のある条件を満たすと、核融合が起きる、としている。

その原理は物理を専門にやっている人間でないと理解が難しいレベルのもので、私には理解しきれなかったが、「プレートが弾性を持っていて、歪を開放するために跳ね上がる」などという、現在主流の仮説もメカの技術者である私には納得できるものではないことを考えれば、余程合理性のある仮説に思える。この理屈で群発地震、地震の各種前兆現象、震源が点で表される問題、余震の発生原因などを説明しており、非常に興味深い。
地下に水やCO2などを注入すると地震が起きることが、アメリカにおけるガス田や油田への注水が地震を誘発したこと、中越地方で地中へのCO2注入開始半年後に起きた新潟県中越地震などから経験的に分かってきており、このメカニズムもうまく説明できるのである。

「根拠に乏しい」と思われる方もいると思うが、まだ、この仮説を研究している人間が少ないので、裏付けが弱いのは当然のことであって、新しい仮説を提唱したことを大いに評価すべきであろう。
研究予算さえ付けば、こちらの仮説の方が物的裏付けを取りやすい理論と思われるので、意外に早く定説となる可能性があるのではないかと感じた。