魔法の庭・空を見上げる部族 他十四篇
和田 忠彦 / カルヴィーノ
定価: ￥ 720+税

まだカルヴィーノが作家の方向性を模索しながら，編集者，ジャーナリストとしても活躍していた時期の初期短篇集．子どもたちの海遊び，戦争ごっこや冒険，憎みきれない菓子泥棒，空を行き交うミサイルを見上げる原始部族など，ユーモラスな寓話世界が次つぎと語られる．速さ，透明性，具体性，簡潔性，軽さ――カルヴィーノ文学の特質のすべてがここにある！



「むずかしい」状況に遭遇する主人公たちは、都会の森に迷い込んだ青年警官、若い犯罪者、世間からは無能とよばれる猟師、闇に怯えるパルチザン、そして何より、戦争ごっこが本物の戦争に侵蝕され、〈遊戯の終わり〉を体験する子どもたちとなってあらわれる。

そして「ことばともの」の軋みが最大限に達したとき、「むずかしい」と形容されたカルヴィーノの「牧歌」的世界に、諷刺の、それも直截といってもかまわないであろう手法が迫り出してきて、ほんの少しだけれど、『投票立会い人の一日』にはじまり『レ・コスミコミケ』を経て『見えない都市』へといたるカルヴィーノの軌跡を先取りするような、法螺話と寓意の奇妙な同居がはじまったようにみえる。

ジョヴァンニーノとセレネッラのように、「魔法」の世界と日常とが背中合わせでいることに一度気づいてしまった者は、いつでも、自分がその気にさえなれば、「魔法の庭」のある世界に身を踊らせることができるようになる。

カルヴィーノの作品には最晩年の『パロマー』にいたるまで、いつも陽の光が射し込んでいた(『パロマー』を閉じる「うまい死に方」において、光の道が閉ざされるまで、ということだけれど)ことにあらためて思いあたる。

〈和田忠彦・解説
　　「ふりそそぐ光のなかで」より〉



目次
街に吹く風
愛――故郷を遠く離れて
菓子泥棒
小道の恐怖
蟹だらけの船
うまくやれよ
魔法の庭
猫と警官
動物たちの森
だれも知らなかった
大きな魚，小さな魚
楽しみはつづかない
不実の村
アンティル諸島の大凪
空を見上げる部族
ある夜のスコットランド貴族の独白


美品