中古なりの状態ですがPCに問題なく取り込めました。

ベートーヴェン：交響曲全集（ＣＤ５枚組）

ベーレンライター社版新楽譜使用



指揮：デヴィット・ジンマン

演奏：チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団

1997＆98年デジタル録音



ピリオド奏法の演奏はガサガサドンドンとしたせわしない喧騒が混じることが多く、楽器の貧相な音色と相まって「昔のレシピを再現したけど現代からすると美味しくない料理」みたいに感じることも多いですが、この全集はそんなことは全くありませんでした。むしろ脂ぎったバターの味わいを排して、食材から鮮烈な味わいを引き出したかのような演奏という印象を受けます。



チューリッヒ・トーンハレ管の音色にはイタリアのオケのような歌への執着と響きの明るさ、軽快さが混ざっているように思えます。古楽器風の奏法での現代楽器による録音というのも、その特徴を助長していると思われますが、原典の最新の研究成果をふまえての演奏は、ベートーヴェンの指定のメトロノームの速さに近いテンポをとっているようで、快調なテンポがイタリア調の印象を強めています。

　このようなテンポでアンサンブルが崩れないのは実際、驚異的なことであります。その爽快感はまた、スポーティーな爽快感とは似て非なるもので、実に豊かな音楽的感興を呼び起こすものとなっていることもまた、実に素晴らしいことであります。

原典版を使った新しい楽譜による演奏だということは特記すべき。ボウイングからアーティキュレーション、フレージングは当然としても、細かなディナーミクの変化に至るまで実に細心の注意をもって、彼らが録音に当たっていることは、少しでも聞けばわかる、そんな丁寧な仕事を、ジンマンとチューリッヒ・トーンハレ管の音楽家たちがやっている。

　慣れ親しんだ楽譜、パート譜というものがこのように歴史のあるオーケストラにはあるはずで、ボウイングも全て書いてあるのに、それをもう一度一からやりなおし、楽員は慣れ親しんだ音符を一生懸命忘れ新しい楽譜を一生懸命さらうのは、並大抵ではなかったはずです。それも古楽器集団でなく、現代楽器の歴史のある団体で行うことの苦労を考えると、この録音は快挙であると私は思います。