MARIA GRINBERG
COMPLETE PIANO SONATA
LUDWIG VAN BEETHOVEN


グリンベルクは、1908年オデッサ生まれ。
ユダヤ系であったため弾圧を受けながらも、ピアニストとしての名誉を回復し、旧ソ連で初めてベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集を録音した音楽家となった。
スターリンの死後、活動範囲を広げたグリンベルクが、キャリアの晩年となる1964年から1967年にかけてレコーディングを行った全集は、そのピアニストとしての人生の集大成。そこに込められた気迫と強靭な精神は驚くばかり。
そんな彼女ですが、録音完了の4年後、1978年には69年の生涯を終えます。
この全曲録音は、グリンベルクのライフワークとして、彼女の演奏芸術を刻み込んだかけがえのない演奏として、見事な内容を示したもの。
これほどまで決然としていながらしかも深い情念を感じさせるベートーヴェンはそう聴けるものではありません。

凛として厳しく、しかも美しい演奏。苛烈な人生を歩んだ人であり、それを知らずに聴いても最上の品格を感じ取ることが出来る。
録音にも不満はない。

演奏解釈はベートーヴェンの波乱の生涯とかなり同調するものであり、モーツァルトやハイドンの影響の感じられる初期のソナタから生命力の漲るような音楽の流れを作り出している。
ハンマークラヴィーアのソナタなど、向かうところ敵なしといった風情で、その堂々たる弾きっぷりをブラインド・テストすれば、多くの人が男性ピアニストの演奏だと思うであろう。
ドイツ系のピアニストのような様式を踏まえた音楽とは異なり、自分のヴァイタリティをすべて抜付けてくるようなパワーが溢れている。
30番台のソナタでも、達観するのではなく、現実に挑みかかろうとするようなスタンスを感じさせる。
この演奏が好きか嫌いかは別にして、確かにグリンベルクの演奏は一つのベートーヴェン像を構築している。

いったいこの人は、どんな人生を送ってきたのか？
強靭なタッチ、断固とした意志、迸る情熱、刺激的な響き、構成感の大きさ、女流らしからぬ演奏。


マリア・グリンベルク(ピアノ)

録音：1964～66年ステレオ

CDVE-04245

BOXに経年に劣化(折れ・汚れなど)が見られますが、盤面は綺麗な状態です。

NC/NRでお願い致します。