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表題名となっている「傷ついた葦」は「彼は傷ついた葦を折らず、くすぶる灯心を消さない。」からきているようです。これは神様は葦のようなそんな弱い私たちでも見捨ててしまうことなく、生きる力が絶え入りそうになっている命にも再び油を注いで、新しい力を与えて下さり、いとおしみ大切にして下さると諭すマタイ福音書12章15～21節に記されている文言です。

　多くの宗教がらみの小説の主題として、結局神は救いの手を差し伸べず、あるものは堕落し犯罪や姦淫に走り、あるものは神を最後まで信じながらも殉教していくという物語となっています。本書では信者ではなく、神のしもべである神父の中に生じる宗教への矛盾と不信を淡々と起きる人間模様や事件を背景に描き出します。



田舎の教会の神父はある意味煩悩にまみれています。田舎のみすぼらしい教会に配属になったこと、新任の若い部下の副司祭の方が信者に人気があること、若い娘の信者に臭いといわれたこと、近くにある修道院のシスターたちがウザいこと、信徒たちの依頼がめんどくさいこと・・・。全く一生懸命布教に励まない神父は、時々街へ出て安酒に出てストレスを解消するくらいしか楽しみがありません。

それでも根が真面目な神父はまじめに仕事を務めますが、教会に通う人は貧乏を呪い、わがままで、時々見せる思いやりも表層的です。ついには部下である副司祭が、信徒と駆け落ちをするに至り、自分の今までの神父としての人生は意味があったのかと自問自答を繰り返すのでした。

信仰の意味を神父の桎梏という形で見せる異色の作品です。