「死のひそむ家」
　訳者: 成川裕子

　男はいつも、フォード・ゼファーに乗って現れた。
　夫の留守中、いそいそとその男を迎え入れるルイーズのことを思うと、隣に住むスーザンの心は痛んだ。
　夫に愛人ができた末、捨てられた過去をもつ彼女としては、つらい昔が思い出されてならないのだ。
　そんな心の振幅が、やがてみずからを、渦巻く詭計の中へ導こうとは夢にも思わずに……！

　解説 竹本 健治氏
〈中略〉この作品には最初から最後まで、不倫、離婚といった〈夫婦関係の崩壊〉というテーマが、通奏低音のように流れている。
　ことに、心をあずける相手が誰もいないスーザン（女主人公）の孤独が、全編にわたってきめ細やかに描きこまれ、読み手を圧倒するほどだ。
　その孤独ゆえに、はじめは反感しか抱いていなかった男性に心をひかれてゆく過程の描写などは、全く心憎いばかりである。
〈中略〉一見、なんの変哲もなく見える日常も、ひと皮むけば人びとのドロドロとした心理が渦巻き、その底で、常に血なまぐさい惨劇が胚胎しているのだ。
　彼女（レンデル）はそのことを丹念に、克明に暴いていく。
　つまり、彼女がミステリの手法を使って暴きたてようとしている真の対象は、日常そのものの迷宮性、怪物性なのだ。
　無論、それを支えているのは、レンデルの冷めた人間観、世界観である・・・

　蛇足ながら
　この作品は、六作目の長篇で、ノンシリーズものしての三作目とのこと♪

　カバーに軽微なスレ、ヨレがありますが、古書レベルとしての本の状態は概ね良好かと♪