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第166回直木賞、第12回山田風太郎賞、「ミステリが読みたい！2022年版」、「このミステリーがすごい！2022年版」、「週刊文春ミステリーベスト10」「2022本格ミステリ・ベスト10」でそれぞれ1位に選ばれているという大谷翔平並みのタイトルホールド作品の登場です。「名物に旨い物なし」「受賞作に名作なし」と常々思っている私ですが、自身ミステリーファンで過去にも名作をいくつも著わしており、私の一押しの米澤穂信の作品ですから読まないわけにはまいりません。



　米澤には珍しい時代ものとなっています。そもそもミステリの起きる現場は薄暗い、陰湿な場所が多いのですが、今回の舞台は織田に攻められて籠城中の有岡城。周囲は織田の軍勢に取り囲まれており、まだ兵糧はあるものの、戦闘はほとんどなく、城主・荒木村重は、毛利の援軍をひたすら待っている状態です。従って舞台の雰囲気はアンニュイで、閉塞感・逼塞感が支配しているのです。村重としては家臣たちに織田への内通者がいないかと疑心暗鬼。

　そんなところで第一の事件・密室殺人事件が起きます。被害者は人質として城中にいる自念。父親の裏切りのために屋敷の奥の納戸に閉じ込めておかれたのだが、御前衆に警固に桃関わらず自念は射殺されてしまいます。当夜は雪が積もっており、現場に近づく足跡は見られず、凶器のやも発見できません。動揺する家中を鎮めるために事件の解決を迫られる城主・村重。頼るのは白の地下牢に捕虜として拘禁している織田の知将：黒田官兵衛でした。村重の話を聞いてたちどころに謎を解く官兵衛です。

　このように、籠城中に起きる謎を次々に解決する官兵衛ですが、本小説は官兵衛の車椅子探偵小説ではありません。これらの謎解きは深淵なる計略の序章にすぎないことがだんだんと明らかになってきます。囚われの身である官兵衛が復讐のために放つ矢はいかなるものか？



　単なるミステリに終わらず「巌窟王」なみの復讐劇となっているところが見所ですが、このプロットでさえも最後は捨て去ってしまうという、贅沢などんでん返しが用意されています。