現代芸術をみる技術 アート・思想・音楽をめぐる十八章
江藤 光紀
定価: ￥ 2800+税

……。メカニカルな技術にすらそれを作った人のものの考え方、時代の考え方が反映されているものですが、芸術もまた技術に裏打ちされた感性の表現であり、現代のアートも時代の根底にある思想のエッセンスを汲みつつ、世の中の動きを半歩先取りするような形で進んでいます。だから現在進行形の芸術に触れるということは、近未来の思考・近未来の知覚の姿に触れるということでもあるのです。

……。20世紀初頭、マチスを始めとするフォービズムやピカソ、ブラックらのキュビズムは伝統的な意味での絵画の限界に挑みます。モダンアートの扉は彼らの革命的な仕事によって開かれました。第一部ではそこから現代芸術のビッグバンとも言うべきこの二つの潮流に刺激されて生まれた、第一次大戦前後のさまざまな動きを追っていきます。……、未来派、神秘思想を内に含んだ抽象絵画や、……、ロシア・アヴァンギャルド、そして芸術をコンセプチュアルな面から捉えなおしたマルセル・デュシャンの創作活動など、20世紀の芸術の諸問題の多くは、この最初の20年ほどの動きの中からきざしています。

……まず芸術のモダニズムの起こりを解説した第一部で一章を割き、クラシック音楽というときに多くの人がイメージする19世紀のドイツ器楽音楽の発展を追いながら、なぜモーツァルトやベートーヴェンから無調音楽が生まれていったのかを簡単に説明しました。

美術を中心に据えながら文化的周辺領域をも広く視野に収め、そこから常に変転する生きた文化を、その背景にある思想と共に浮かび上がらせる――本書のねらいはそこにあります。「現代アート」とせずに、多少堅苦しくはなってももう少し幅広いニュアンスをもった「現代芸術」をタイトルに用いた理由はそこらへんにあります。

〈はじめに　より〉

江藤光紀
1969年生まれ。一橋大学社会学部卒、同大学院社会学研究科博士課程修了。博士（社会学）。愛国学園大学人間文化学部専任講師を経て、筑波大学人文社会科学研究科専任講師。音楽評論家として『日本経済新聞』（夕刊批評欄）、月刊『ぶらあぼ』、「クラシックニュース」（ウェブマガジン）に継続的に寄稿。また室内楽曲を多数作曲し1991年、2002年、2009年には自作による発表会を開いた。


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