「河童・或阿呆の一生」　芥川龍之介　新潮文庫

平成二十二年九月五日　九十五刷

・大導寺信輔の半生

・玄鶴山房

・蜃気楼

・河童

・或阿呆の一生

・歯車



以下は私の読後感想文です。

この文庫本を読みたいと思ったのは、「河童」という作品に上高地の河童橋や槍ヶ岳が出て来ることを他の本で知ったからでした。



「河童」から抄出

「三年前の夏のことです。僕は人並みにリュック・サックを背負い、この上高地の温泉宿から穂高山へ登ろうとしました。穂高山へ登るのにはご承知の通り梓川を遡る外はありません。僕は前に穂高山は勿論、槍ヶ岳にも登っていましたから、朝霧の下りた梓川の谷を案内者もつれずに登っていきました。－以下省略－」



登山の途中、梓川で主人公は河童に遭遇、逃げていく河童を追い続け、河童を捕まえる寸前に深い穴、深い闇の中へ真っ逆さまに落ちでしまうのです。

そして主人公である僕は河童の世界で暫く暮すのでした。



河童の世界から人間の世界への復帰する場面

「すると今まで気のつかなかった天窓が一つ開きました。その又円い天窓の外には松や檜が枝を張った向うに大空が青あおと晴れ渡っています。いや、大きい鏃（やじり）に似た槍ヶ岳の峯も聳えています。僕は飛行機を見た子供のように実際跳び上って喜びました。

－以下省略－」



上高地や槍ヶ岳・穂高岳・梓川など北アルプスに関連する描写はこの程度に留まっていて、上高地の玄関口に架けられている有名な河童橋に引っかけて、現代社会などの風刺作品である「河童」が書かれているだけでした。それ以北アルプスの山々に関する描写はありません。



この文庫本に載っている作品はいずれも芥川龍之介の晩年の作品です。

死後に発表された作品もあります。

狂気に陥った芥川龍之介の私小説的な作品集といえるでしょう。描写や設定があまりにも病的で、気持ちよく読み進むことが出来ず読了するまでに半年かかりました。

「自己の将来に対するぼんやりした不安」が彼の自殺の原因とされていますが、彼の心がむしばまれていく過程を理解することが出来た文庫本でした。