伊丹十三氏著作の「女たちよ！」「再び女たちよ！」文藝春秋刊オリジナル本、2冊の名エッセイ集セットです。伊丹十三氏のエッセイの特質はデビュー作の「ヨーロッパ退屈日記」で山口瞳氏が裏表紙に書かれたように、優しさから生まれた厳格主義にあります。そしてその優しさがホンモノであると山口瞳氏は語りました。戦後、ホンモノの欧米文化を紹介した本格的なエッセイは、氏が切り拓いた独自の分野です。出品作の2冊は私が大学生時代に「ダンディズムの教科書」にしていたものです。特に「女たちよ！」は何度も何度も読み耽ったものですから、昭和43年の初版本でしたが、ボロボロになってしまいました。そのためやむを得ず新しく昭和46年に買い換えた本です。そのため第13刷の本で274ページです。「再び女たちよ！」のほうは昭和47年初版第1刷本、238ページです。表紙に描かれた女学生は、私の想像ですが、おそらくは氏の奥様である宮本信子さんだろうと思います。"粋"の教科書でもあった「女たちよ！」の続編が出版された時は、嬉しくて、早く読みたくて、真っ先に購入したことを覚えています。2冊の本は大切に書棚に保管していましたが、どうしても経年劣化は避け難く、本を閉じた時の縦横紙面に赤茶けた紙焼けがあります。しかし、紙焼けといえども捉え方を変えれば、風雪の時間を耐えてきた歴史の証明でもあります。古くはなりましたが、書物そのものにシワ、汚れなどありません。なぜなら、新潮社から文庫版が発売されたので、通常読み返すことは手軽な文庫版で済ませて、オリジナル版は書棚に飾っていたからです。伊丹十三氏は最終的には映画監督として知られていますが、そもそもは商業デザイナー・イラストレイターから始まり、俳優、エッセイスト、作家、TVコメンテイター、TV番組製作者、グルメ料理人、雑誌編集者としても万能で、すべてに本格で超一流の人でした。氏が「女たちよ！」の序章で語られた言葉で、私が一番感銘を受け、驚き、肝に命じ、心した文章があります。それは次のような記述です。"私は役に立つことをいろいろと知っている。そうしてその役に立つことを普及もしている。がしかし、これらはすべて人から教わったことばかりだ。私自身は……ほとんどまったく無内容な、空っぽの容れ物にすぎない"