２００４年、中国の西北大学歴史博物館から、唐時代の日本人・井真成の墓誌についての発表があった。西安の工事現場から発見された墓誌銘は、蓋と墓誌の二枚の石からなっていた。そこには、開元２２年（７３４年）に３６歳で遠く日本から遣唐使一員として渡来し勉学に励んでてきた若者、井真成が思いがけず亡くなったことが記されていた。その死を悼んだ当時の唐皇帝・玄宗は井真成に「尚衣奉御」という従五品上という官位を授けたという。当時の新聞報道では、遣唐使では唐代の名前に名字、名前を変える事が多かったとの考察より、井真成は河内の国紀郡井於郷出身の日本名は葛井（ふじい）、井上、白猪（しらい）との推論を発表した。



本書は、その推論に疑念を持ち、「井」という和姓が現存し、そのまま唐でも名乗っていたのではないかという主張をしている。２００５年の調査時点で、全国には「イ」「イイ」の姓として、井が７７５件、井伊が８９５件、伊井が１５０５件、猪井が２７８件、李が２０９７件、その他、飯、井居、飯井、飯居などが名字として現存。特に「井」姓は九州に５３４件あり、熊本県阿蘇郡産山村には１０５件が集中しているという。



魏志倭人伝に登場する邪馬台国に敵対する狗奴国はその後ヤマト王権に対抗する熊襲となった菊池氏ではないかという推論があり、倭国の礎となった委奴国がその本体ではないかという。天智から天武、持統への皇統継承の間に存在する白村江の戦いと壬申の乱の間に、九州王朝から大和王朝、百済系王朝と新羅系王朝の移行が隠されていると推論する。九州王朝が本来の倭国であり、６６３年の白村江の戦いはその王朝の解体を決定づけた。中大兄皇子は近江に逃亡、唐は九州王朝を一時的に制服したかに見えたが、吐藩の反乱で列島と韓半島から引き上げ、新羅の支援を受けた大海人皇子が蜂起したのが壬申の乱。近江朝を打ち破った大海人皇子は大和飛鳥の物部系大氏に迎えられて飛鳥浄御原宮に入り、ここにヤマト王権は確立した。しかし６８６年の朱鳥の変で近江朝残臣がクーデタ、持統を介して擬制的に天智系統に引き継がれていく。



こうした推論の上に、当時の遣唐使のメンバーに委奴の子孫である阿蘇郡の井真成が居てもおかしくないだろうというのが主張の本論。「和姓に井真成を奪回せよ : 緊急提言」

越境の会

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