ステーキ! 世界一の牛肉を探す旅
マーク・シャツカー / 野口深雪
定価: ￥ 2500+税

米国量産牛、ラスコー壁画の野生牛、アンガスに松阪などなど、7か国をめぐり平らげた牛肉の総重量は45kg
牧場主、三つ星シェフ、科学者等に取材するも飽きたらず、挙げ句の果てのチャレンジは自分で牛を育ててみること。餌は？肥育期間は？熟成は？
ステーキの全てを知りたい男の探究心の行き着く先は？
考古学、栄養学、化学、歴史、文化人類学……
先史時代に遡る人と牛の関わりを多角的に解き明かすユニークな体験記。


”テキサスを皮切りに、フランス、スコットランド、イタリア、日本、アルゼンチンと、独自のステーキ文化を育んできた国を訪れ、確固たる信念で牛の飼育に情熱を注ぐ牧場主たちの話に耳を傾けるほか、格付や繁殖など食肉産業を支える専門分野の現場も取材、地元有名店のステーキを味わいながら、多様な品種や飼料の違いと肉の味との問題を探っていく。
―略―
本書で描かれる「日本」は著者にとっては異色の国のようで、牛肉の生産量も消費量も決して多くないからこその霜降り(=脂肪)信仰は著者の目に独特のものと映ったようだが、それ以前に、日常的な日本文化の特異性にいちいち目を白黒させている様子が興味深く、この章を読めば著者の観察がいかに細やかで正確かもよく分かっていただけるだろう。……略……”(あとがきより)


第5章「日本」より
”日本人といえば、過剰なまでのスペシャライゼーション(特化)が有名だ。ドイツ人をさしおいて世界一の完璧主義者として知られる彼らのユニークな文化特性を、僕は日本に着いてから丸一時間で目のあたりにすることとなった。

「神戸牛か」僕はそうつぶやくと、ふむふむとうなづきながら、人の手で施されるマッサージとビールによる仕上げがもたらす効果を鑑定した。神戸牛の画像ならインターネットで何十枚と見てきたけれど、現物を目のあたりにするための心の準備という意味では何の役にも立たなかった。それはあまりに非現実的な光景だったし、厳密に言えば非現実だった。なにしろ店主が言うには、僕が見ていたのは神戸牛ではなく、岩手牛だったのだから。

ブランド牛としては、岩手は神戸の足もとにも及ばない。……。日本には、霜降りと肉質を格付けする複雑な等級システムがあって、最も理想的な霜降りはA5と格付けされる。……”