故三島由紀夫が心酔した、旧鍋島藩、山本常朝によって執筆された名著。
　「武士道とは死ぬことと見つけたり」という一文で有名な作品です。　この言葉からあまりに世間に流布され、大概の人は知ってはいるが、読んだことはないという代表的な著作でもあります。
　私も一度は読破しようと試みたのですが、原書自体は全十一巻にのぼる長大なものであり、それを3眼前にし諦念した記憶があります。
　これを簡潔にに纏め上げ、且つその真髄を外れることなく、その熱情を損なうことなく著した書物です。
　特に冒頭の30ページにある、平家物語のハイライトである、平重盛の言う「忠であろうとすれば孝でなく、孝であろうとすれば忠でなく」と嘆いたことをいともなく葉隠では忠と孝を両立させることが間違ってる武士道とはひたすらに忠に徹することであると、なんら疑問も抱かずに重盛の悩みを愚の骨頂であると断じている。
　現代人はなまじジレンマという思慮を持ったばかりに決断ができなくなってしまったのではないのか。論理が矛盾することに拘泥することが知恵者であると錯覚してしまい、主君に対して懐疑的であることを否定している。
　たしかに主君に対して戒める、いわゆる諫言という言葉もあり、中華は唐の時代に諫言太夫という官職もあった。それが葉隠武士道と同質、同類であるか否かは別として、忠に徹底することこそ忠の極みであると論じている。
　先に記した「武士道とは死ぬことと見つけたり」という言葉は対外的な意味だけではなく、徹することによってのみ忘我の境地に辿り着くことにある。