吉本隆明　詩人、評論家
　戦後、詩集『固有時との対話』(1952年)などを発表。その後『文学者の戦争責任』(武井昭夫との共著1956年)、『転向論』(1958年)、『高村光太郎』(1957年)、『共同幻想論』(1968年)など著書多数。

死の位相学
吉本隆明著
潮出版社刊　昭和60年6月初版発行
A5判　定価1,500円　267P

　書名は〝死〟〝死への道筋〟について、民族、地域、性別あるいは学術書や文学作品、ルポルタージュなど書き手によって異なる捉え方を〝死の位相〟と表現。
　人は、生まれた時から、その自己実現への道が始まる、それは死への準備に外ならない。

第一章
『日本の〝死〟体験の記録は欧米に較べて少ないと述べ、記録として柳田国男の『遠野物語』を挙げる。文芸の世界では、死後の世界をモチーフとして書いた埴谷雄高の『死霊』を挙げる。
第二章
〈戦中派の生き方〉。大家族と核家族における死の捉え方の違いや、小説家・島尾敏雄の敵兵の死を弔った行為、『きけわだつみのこえ』の虚偽などをあげる。
第三章
〈東洋と西洋の生死観〉では、東洋の曼荼羅と西洋のＣ・Ｇ・ユングに代表される集合的無意識、Ｅ・キューブラー・ロスの『死ぬ瞬間―死にゆく人々との対話』に代表される臨死体験に触れる。
第四章
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』にみる死後の世界を取り上げる。
第五章
〈再生もしくは救済物語について〉として、大江健三郎著の『新しい人よ眼ざめよ』を取り上げ、私小説ともいうべき作品の死の定義を読み解く。
第六章
〈死が恐怖でなくなるとき〉では、トルストイの『イワン・イリイチの死』とリルケの『マルテの手記』を取り上げる。
第七章
〈心霊現象とホログラフィ〉。神秘思想家スエデンボルグの『霊界日記』を否定的に取り上げ、Ｋ・ウィルバーの『空像としての世界』、アリストテレスの『霊魂論（デ・アニマ）』、ほか多くの科学者の著作も取り上げている。
　また「ホログラフィック宇宙論」（現実世界は二次元であるという説）は面白い概念。
　さらにマルクスやエンゲルスの唯物論者の死生観を取り上げている。

　資料として日本人の臨死体験３１本と、数多くの参考文献が掲載されており、書名索引もあり。


　経年のわりにはきれいかと思います、写真をご覧ください。

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