昭和53年 257ｐ 部数は少なそうです。資料用にもいかがでしょうか。

はしがき
明治なかごろから大正のはじめにかけ、大阪を中心に活躍した財界人に、岩下清周なる人物がいた。その 彼が財界から身をひき、富士山麓の一寒村に隠退生活をおくっていた時のことである。村の子どもたちと座 談会をもったおり、たまたま話題が外国のことにうつった。彼がロンドンやパリの人口はどれだけ、と聞く と、子どもたちは即座に正確な返答をしたのである。ところが自分たちが住んでいる村の人口は、と質問す ると、彼等は黙して語らない。子どもたちはそれをしらなかったのである。遠い諸外国のことはしっていな がら、身近にある自分の国・町・村についてはしらないという厳たる事実に直面した岩下は、大地にしっか りと足をつけた教育を子どもにほどこしてもらおうと考え、ついにその村に私学校をおこしたのである。
経済学の世界とても、この岩下のエピソードが物語る事態にたいして例外ではなさそうである。イギリス やアメリカのことについては、その国民が顔まけするほどにしっていても、自分の国である日本について は、あまりしらないというのが現代の学生にみられる通弊の一つのようである。たとえばドルやポンドの歴 史について、米英人がおどろくほどまでによくしっており、イギリス貨幣の旧計算法である複雑な非十進法 をスラスラと口にすることのできる学生でも、江戸時代の日本貨幣の制度・計算法となると、なにもしらな いというのが一般のようである。これは現代学生にみられる一つの事実をのべたまでのことであって、非難

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