1979年 153ページ

あとがき

父は、いろんなことをやりかけたまま急いで逝ってしまった。このあとがきにしても そうである。資料や原稿用紙を病院に持ち込み、書く気でいたのだ。おそらく、自分で もこんな結果になるとは思っていなかったのだろう。残念なことである。
いま、原稿を読み返してみると、その創造の哲学が実に鮮明にぼくをとらえる。もっ ともっと父からいろんなことを学んでおきたかった、と後悔の日々であるが、しかしこ の『花伝書』をじっくり読み込んでいくと、父の考え方の源泉はここに尽くされている のがわかる。
はなに向かって五十年。 はなを愛し、はなを拒否し、はなを通して万象に至ろうとし たユニークな一人の人間の、つきつめた物の見方があますところなく活字に躍動している。わたくしは、迂闊にも、今にしてそれを知るのである。
ここに収録したことばで、一番古いのは、父が三十三歳のとき、創流後間もなくの
のである。一つ一つのことばに年代は記されていない。また、その必要はなかった。そ れぞれをテーマに沿って分類し、配列した。極端な場合には、隣り合って並んでいる二 つのことばの間に、三十年以上のひらきがあることさえある。当然それなりの変化や深 まりはあるが、基調になっているものは少しも変わらない。その事実におどろく。
元原稿は膨大な量にのぼった。それを整理に整理して、蒼風五十年の活動にもとづく 造形哲学、芸術論、技術論のエッセンスだけを残した。
構成は二部にし、第一部には一九六六年刊の『私の花』 (講談社インターナショナル)に 収めた書き下しの「花伝書」を、第二部には、一九三三年発行の『瓶裏』以降、すべて の機関誌、単行本、指導講義から厳選したことばを、それぞれ収録している。
ぽくと父が交した会話のほとんどは、いけばなと関係のないことばかりだったように
たく
思うが、いまこれを読むと、いけばなにしてそれらのこともすべて語られているのに 気がつくのである。
勅使河原宏
一九七九年十月十八日記

外箱傷、小汚れ。小口下部にややシミ。

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