中国法書選
呉昌碩集　清　79ページ
王献之尺牘集　東晋　47ページ
中国法書ガイド
書譜　孫過庭　65ページ
雁塔聖教序　褚遂良　52ページ

解説

王献之(三四四三八)、字は子敬は、王羲之の七男で、書の歴史上、王羲之と並称されて二王といい、羲之を大王、献之を小王ともいう。また中書令に官したが、従兄弟の王珉もこの官についたので、珉を小令というのに対し、献之を
大令とよんだりする。官途は州主簿、秘書郎、建威将軍、呉興太守、 中書令を歴任した。なお一人娘が東晋の安帝の皇后となった閨閥により、歿後に侍中・特進光禄大夫・太宰を追贈され、憲と諡された。「性甚だ整峻、非類に交わ らず」と評されるが、彼の数多くの逸話には、プライド高くきびしい反面、貴公子らしい鷹揚な人柄をしのばせる。 書はすてに七、八歳て天葉をあらわしているが、その書法の基礎は羲之によって培われた。しかし、のちには必ず しも父に劣るとは思っていなかったようである。王献之に親炙した宋の羊欣は、献之を「骨勢では父に及ばないが、 媚趣は父以上である」と評し、また虞も「流暢な筆勢と変化多端なあでやかさでは父以上である」と称揚している。 義・献の生存中、すでに二人の優劣が月旦されているが、南朝末には、骨力を根幹とし精神と技法に調和のとれた義 之の書が評価され、その後は羲之が〝書聖〟の座に据えられて今日にいたっている。しかし、南朝中期の宋、斉時代 には、羲之の書は古風と見做され、献之の妍媚な書風がむしろ愛好された。
王献之の書跡は、羲之に比して三割ほどしか伝存していない。本書にはそのうち、揚模本・臨写本四種(各刻帖併 載)、刻帖一八種を掲げた。ただし、原跡の形意を如実に伝えていると思われるのは甘九日帖だけである。鴨頭丸帖の 軽快な筆意は、いわゆる媚趣をうかがわせるものの、米芾あたりのよくできた臨写本と思われ、中秋帖は、十二月帖 から一〇字分を省いて書き抜いた臨本であり、地黄湯帖はまた、刻帖を臨書した模本である。刻帖は原跡の実相から さらに遠のく。が刻帖ながら十二月帖は、かつて米芾が真跡を宝蔵し、「天下 子敬の第一帖」と激賞した作だけに、 一筆書〟という連綿体で評価を得る献之の特質を、この重刻本でさえよくとどめている。その他、本書には、淳化閣 帖ほか各種集帖の善本より、献之の多彩な書相をうかがうに足る作で、比較的問題の少ない行・草書を選んだ。もと より献之帖の一斑でしかないが、献之の書を解明する手がかりには、十分であろうと思う。
西林昭

ゆうパケット 3cm　表紙 小傷 小黄ばみ、中国法書ガイド表紙に薄い折れ線。