平成12年　472P

刊行のことば
人々は古くから河川の流域に生活の場を選び、河川の恵みを直接間接に受けて 生活を展開してきた。庄内川は全長96km という規模のあまり大きくない河川で あるだけに、身近な存在として受けとめられ、古くから流域全体が人々の生活の 場になってきた。

当地域の陶磁器産業や寒天産業は、まさに自然的環境や資源に恵まれて発展し たものである。それ故に川に負担を強いる面をもっていた。人々は産業の発技を 押し進めて高度経済成長を支え、生活の豊かさを実現させてきた。しかし,生活 の質的向上や産業の発展に伴い,自然環境にかける負担が大きくなり,川の汚濁 も進んだ。経済優先の時代,物質的豊かさを求めてやまない世相の中では,河川 の汚濁を始め環境の変化もやむを得ないこととして見過ごされがちであった。こ のようなことはどの地域にも共通に見られた問題である。自然の恵み,川からの 恩恵の尊さを軽んじてきた,あるいは自然の恵みに甘えすぎた結果ともいえる。 ある段階まで事態が進んで初めて環境の悪化に注意を払うことができるようにな るのは人の常のようである。

庄内川においても1970年代以降水質汚濁の改善に努力が払われ,現在ではかな りの改善が認められる。しかし,栄養塩類の増加による富栄養化の傾向は続いて いるようであり,さらなる対策が望まれる。科学技術や人々の意識の高揚による バックアップが必要である。もともと科学技術の発達は産業発展のためにのみで はなく,快適で健全な生活の場の確保のためにもあるはずである。地域の住民の 豊かな生活が保たれ,文化を育むことこそ科学技術や産業の発展の目的といえる。

庄内川の流域を生活の場として改めて見直すことにより良好な環境保持が可能 ではなかろうか。数々の自然からの恵みを再認識し,生活の変容に伴って身のま わりの自然がどう変わったかについて十分に分析することが肝要である。このよ うな目的をもって名古屋女子大学生活科学研究所では生活・文化と自然環境の両 面について1996年以来調査を行ってきた。本報告書の内容は庄内川流域のすべて の情況をカバーできたわけではないが、当地域の特徴や問題点についての記録と して意義をもつものと考えられる。地域の発展と人々のより豊かな生活の推進に いささかなりとも貢献できれば大きな喜びである。

最後に,本調査にあたり多大なご支援をいただいた地域の諸機関と個人の方々 に深く感謝の意を表する次第である。
名古屋女子大学生活科学研究所
可耶年秋

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